持続可能な地域交通を考える会 > 意見・提案 > 「川崎市総合都市交通計画の改定案」に関する意見書 |
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本意見書は、意見提出用Webフォームにて送信した本文をWeb掲載用に整形したものです。参考用リンクを追加しております。
川崎市におかけては、少子高齢化をはじめとする地域課題や、環境問題の深刻化などに対応すべく交通政策の立案実施に取り組んでいただきありがとうございます。人と環境にやさしい地域交通の実現に向けて取り組む本会では、かねてより交通・環境分野に関連する様々な施策を注視してまいりました。昨年12月に公表された「川崎市総合都市交通計画の改定案」についても検討を行い、下記の通りご意見を申し上げます。
本計画および改定案において、交通安全対策、とりわけ歩行者の安全対策が掲げられており、その基本方針には共感するが、実効的な具体策が掲げられていないのが残念である。
周知の通り、わが国においては交通犯罪(交通事故)により亡くなる方の過半数が歩行者および自転車利用者で占めらる状況が続いており(交通安全白書、30日統計)、つまり歩行者などの「交通弱者」と呼ばれる人が危険に晒されている状況が長年続いているが、実効性ある対策が取られてこなかった。これは先進国において類をみない異常事態である。本計画でめざす「安全・安心な交通環境」を実現するには、まずもって自動車偏重の道路構造や交通規制を改めることが欠かせない。
しかしながら、本案p54で示されている取組の方針を見ると、放置自転車や踏切対策など、従来から進められてきた周辺対策ばかりが並び、肝心要である自動車利用者への対策が存在しない。具体策が従来のままでは、従来の交通弱者が保護されない状況が変わるとは期待しづらいし、そもそも道路上における危険の主因は自動車なのだから、原因に手をつけずして「安全・安心」を実現できるはずがない。
もっとも、これは本市に限らず全国的な傾向であるから、こうした状況への対策として、警察庁では具体的に「ゾーン30の推進」と「歩車分離式信号」の普及を提示している。本市においても、これらを数値目標を伴う形で本計画に盛り込み、実施するよう求める。
(参考)
関連して、本案p54取組の方針で示されている「幹線道路等の整備による通過交通の生活道路への流入防止」という実効性が全く担保されない(逆に自動車通行空間の増加による誘発需要等による危険性増加のおそれすらある)空文は削除し、そもそも生活道路を通過できない構造や規制に改めることによる実効性ある流入防止策を実施するよう求める。
詳細は2013年3月提出の意見書、および別途意見公募されていた「川崎市自転車利用基本方針(案)」および「都市計画道路網の見直し方針の改定(素案)」への意見書で示しているので、本稿では割愛するが、本案にて新たに「自転車の安全利用と活用」が盛り込まれたことは大いに評価し、期待したい。
川崎市では平坦地を中心に自転車の代表交通手段分担率が高く、さらに電動アシスト付き自転車の普及などにより、10年前(前回のパーソントリップ調査実施時)に比べて丘陵地での自転車利用もしやすくなっていると考えられる。さらに2016年12月に「自転車活用推進法」が成立するなど、自転車活用の社会的要請は一層高まっている状況にある。
経済的で環境負荷が低く(=持続可能性が高く)、健康的で、正しく利用すれば最も安全な乗り物とも言われる自転車の、安全な利用はもちろん、正しく活用できるようにするには、これまでの自動車偏重の道路構造の見直しが欠かせない。自転車活用の推進が社会的・世界的に求められている中で、本市においてはその要請に応え、市民生活に資する政策を実施していただきたい。
本案p30において、本市の交通課題として「地域特性に応じた交通課題へのきめ細かな対応」が掲げられている一方で、具体的にどのような地域特性があるのかは、本計画および本案からは見えてこない。本計画で示されている人口構成の変化予想など全市的な傾向は説明されているが、川崎市は川崎区臨海部から麻生区黒川まで長辺方向に30kmほど離れており、工業地帯からベッドタウン、農業振興地区まで、地域ごとに土地利用も住民構成も大きく異なる。とりわけ高齢化率については、昭和中期に開発された最寄り駅から遠い団地で高齢化が進展しているなど、本計画に示されている全市的な傾向が当てはまらない地域も少なくないと考えられる。
昭和期に爆発的に人口が増加したわが国では、その反動で急速な少子高齢化を迎えており、世界的にもこれまでに経験していないほど急速な変化になると予想されている。本計画を見ると川崎市では人口減少が遅くにやって来るように読めるが、地域によってはその限りでないし、人口減少が遅いということは影響が急速に現れるおそれもある。
市内平均値をもとに施策を展開することは一見自然ではあるが、むしろ市内平均から外れる傾向が示されている地域を見出して先手を打って対策に取り組むことで、今後は他の地域にも拡大するであろう対策の経験を積むことができる。このような先行的な事例にこそ注目して本計画に示すことで、対策にも前向きに取り組めるのではなかろうか。
具体的には、市内平均に比べて傾斜がきつく公共交通が存在しない地域への支援(既存のコミュニティバス施策)がすでに実施されているが、他にも少子高齢化の進展が早い、傾斜がきつく電動アシスト付き自転車の利用割合が高い、工場跡地が宅地化され急激に人口増加している、工業地帯で産業構造が変化している、といったことが例示される(他にもあるだろう)。
このように、全市的な傾向から外れた特徴を持つ地域にも着目し、そうした地域への支援策をモデル的に実施することで、来るべき少子高齢化社会に向けた経験を積み重ねるよう求めたい。
前項に関連するが、本市ではコミュニティ交通の導入支援を実施されてきた。例えば宮前区や多摩区に新規バス路線が開設された。地域住民の熱心な取り組みを支援する形で、麻生区高石や多摩区長尾台などでのコミュニティバス本格運行が実現した。これらの成功事例の一方で、本格運行に至っていない地域も多く存在するし、コミュニティ交通の必要性は感じながらも導入へのハードルの高さを見聞きして断念してしまった地域もあった。
地域交通の取り組みは一律にはゆかず、地域特性等により導入のしかたも大きく変わってくるようだ。例えば宮前区野川南台では自主運行が選択されたし、麻生区岡上では基礎需要の小ささからデマンドタクシーの運行実験が実施されているなど、多様な形態が模索されているが、まさに地域ごとの取り組みを積み重ねる経験が必要になりそうだ。
運行車両を見ても、他の地域ではスクールバスや福祉有償運送などへの同乗や、軽車両(自転車タクシー)等が用いられる事例もある。運営費捻出のあり方も、様々な事例が存在する。これまでの施策は継続しつつも、従来の施策では取りこぼしが生じていた様々な事例に対応できるよう、柔軟に支援策を拡充しながら、取り組み事例を積み増してほしい。
本案において、川崎縦貫高速鉄道(新百合ヶ丘駅〜宮前区向丘地区〜宮前平駅〜高津区橘地区〜武蔵小杉駅)計画が廃止されることになった。財政負担の抑制に理解する一方で、計画の前提にあったはずの交通不便対策の代案が盛り込まれていないのは残念だ。とりわけ高速鉄道計画があった地域は、本計画で掲げられている公共交通の利用促進に関して課題の大きな地域でもあるのだから、代案が示されないことは残念である。
麻生宮前区境付近では路線バスが面的に運行されており、道路も比較的広く、自家用乗用車の分担率がひときわ高くなっている。本計画が定める政策目標である公共交通分担率を高めるためにも、目に見えて路線バスの利用を便利にする取り組みを実施していただきたい。例えば、バス路線が複数事業者により運行されているので、地域共通定期券の創設や、乗換利用者の運賃負担軽減、買物客への路線バス1回無料券の配付(逆に自家用車駐車場は有料化・料金引き上げ)、乗車空間を快適にするための連接バスの導入、PTPSの整備などが、他市ではすでに実施事例がある。
宮前区向丘地区は、溝口駅行きバスが頻繁に運行しており、溝口駅方面へ出る需要が高い地域である。また、登戸駅、向ヶ丘遊園駅、宮前平駅行きのバス路線も設定されている。このうち最も需要が大きい溝口駅方面へのバスは、ピーク時で1時間に34本、日中でも毎時15本程度が運行されており(神木本町発溝口駅方面行き)利便性は高いが、特に朝ラッシュ時は満員で乗車できない便が続出するなど、そもそも輸送力が足りていない。ここは全て市バス・市道であり、市単独で速やかに実施できるモデル的な地域である。早急に連接バスを導入して輸送力を増強するとともに、朝ラッシュ時の溝口駅方面への道路を一般乗用車通行不可(一方通行)にするなど、早急な具体策の実施を求めたい。
高津区橘地区においては、武蔵新城駅、溝口駅、武蔵中原駅経由、元住吉駅経由および綱島駅方面への路線バスが頻発している。このうち需要が大きく市域を通る武蔵新城駅、武蔵中原駅、溝口駅方面のバス路線にて連接バスとPTPSを導入する、道路が狭く混雑する溝口駅方面は朝ラッシュ時間帯に一般乗用車通行不可(一方通行)にするなど、具体的な利便性向上策を求めたい。
また、同様に路線バスが幹線輸送を担っている川崎区臨海部において、京急大師線連立2期事業の中止とともに代替案を検討するとされているが、ここは市役所通り・富士見通り、新川通り、および市電通りにおいて片側3車線が確保されるなど、自動車のために広大な公共空間が割り当てられているが、違法駐車で埋まり、自転車は歩道に押しやられているありさまである。ここでは既存のストックを再配分するよう求めたい。車道上に幅の広い自転車レーンを確保するとともに、終日バス専用レーンを実施し、また連接バスを導入して快速バスを運行し、一部で実施されているPTPSを全域に拡大するなど、準幹線輸送を担うに相応しい輸送体制を確保するとともに、臨海部の通勤送迎バス等の乗客を路線バスに誘導するなど、路線バスおよび自転車を優先する車道空間の再配分、および路線バスの高度化を求めたい。
少子高齢化時代において、段差を減らして歩いて暮らせるまちづくりが求められる。一方で、本計画においては南武線の高架化や歩道の増加など、段差を増やす施策が盛り込まれている。
地平を走る鉄道駅においては、近隣では東急大井町線などで見られるように、対向ホームの両側に改札口を設けることで段差を減らすこともできる。橋上駅舎化や高架化一辺倒ではなく、早く安価に実効性あるバリアフリー化を求めたい。
生活道路においては、歩道を整備することで自動車の速度が上がり、かえって危険になることがある。歩道整備ではなく、前述の「ゾーン30」などの施策により、歩行者を最優先する道路であることを自動車利用者に周知徹底させる取り組みこそが有効である。
生田緑地周辺や多摩川など、街頭に案内表示が整備される場所が増えてきた。これらは有意義な取り組みであり歓迎したいが、本案でも示されているように、多言語による案内の必要性が高まっているように感じられる。とりわけ外国人観光客に人気のある日本民家園がある生田緑地周辺をモデル地区として、日本語以外に少なくとも英語にも対応した案内表示の充実をしてはどうか。
本案には「次世代エネルギーや新技術を活用した交通の低炭素化」が掲げられており、このうち路線バスや貨物輸送、郵便配達などの走行距離の長い自動車の改善は期待されるが、一方で自家用乗用車などの走行距離が短い自動車への安易な補助を行われてはならない。
財政負担の軽減や高齢化を理由に高速鉄道事業を中止するような状況にある本市において、限られた公金の効果的な配分が不可欠のはずである。とりわけ新技術は効果の割りに費用負担が大きい側面がある。限られた予算は、走行距離が短い自家用乗用車ではなく、投資効率の高い事業用車両に集中投資すべきである。
しかも自家用乗用車への補助は、本計画が定める公共交通の分担率向上や、歩行者等の安全性向上に反目するものとなる。貴重な税金を、走行距離が短く、本来は抑制されるべき自家用乗用車への安易な補助に浪費することの無いよう求める。
本計画および本案で示されている施策等は、川崎市まちづくり局だけでなく、他部署、区役所、および警察や鉄道・バス・タクシー事業者などの主体が実施するものが含まれている。例えば鉄道駅へのホームドアの設置などは主に鉄道事業者が実施している。
各施策について、本市が実施するものは担当部署名を、警察や他事業者が実施するものは本市の担当部署名と関係事業者等の名前を示すとともに、各々の役割分担を示していただきたい。
本計画は10年毎に全体的な見直しをすることになっており、さらに今回のように5年目で見直すこともあるようだが、本計画の基礎データとして使われているパーソントリップ(PT)調査は10年毎の調査であり、PDCAを実施する上で時間的な粗さを感じる。
PT調査では把握しきれない直近の変動を把握し、隙間を埋めるために、簡易的な情報収集を行うべきではなかろうか。例えば市バスなどのデータは直接収集できるはずだし、他の交通事業者等にも乗降等のデータ提供の協力を求めるなど、情報収集と分析の時間的な精度を高めていただきたい。
また、例えば他市では市民によるスマートフォンアプリでの道路陥没等の報告の仕組みを導入した事例もあるが、交通は様々なデータを生み出し、また課題解決にデータを必要とする分野である。市民や交通事業者等からの情報提供を積極的に受け付けるとともに、別部署で取り組まれているオープンデータの取り組みとも連動して、市バスをはじめとする交通分野のデータ開示を積極的に進めるとともに、交通関連で収集したデータや、今後スマートフォン等およびIoTの活用により収集・分析したデータもオープンデータのプラットフォームに乗せてゆくことで、行政と市民の双方にとって有益な取り組みが生まれるよう期待したい。