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川崎市自転車利用基本方針(案)」に関する意見書

2018年01月05日提出

はじめに〜自転車利用環境の整備、自転車活用推進の取り組みの必要性と期待

自転車は市民生活に欠かせない乗り物であるとともに、経済的で、環境負荷が低く、健康的で、正しく使えば最も安全な乗り物とも言われています。すなわち、少子高齢化時代の経済的で持続可能性の高い移動手段の確保をはじめ、毎年繰り返される悲惨な交通犯罪(交通事故)の抑制、排気ガスや騒音振動等による公害の削減、地球温暖化対策、市民の健康づくりによる健康寿命の延伸や医療費抑制など、多岐にわたる様々な社会課題を解決する可能性を持っている乗り物でもあります。

川崎市における自転車の地域別代表交通手段を見ると、丘陵部を含む全市で16%、平坦地では25%を超える地域もあり(H20年パーソントリップ調査および同調査結果の内訳を示した川崎市総合都市交通計画検討委員会資料)、後者は欧州の自転車先進国と呼ばれる国に比肩するほどの水準になります。この他、本資料に示されているように、最寄りの鉄道駅までの二次交通手段としても盛んに利用されています。それほど自転車は市民に選ばれ、市民生活に欠かせない乗り物であることがわかります。

しかし従来の道路構造およびその規制(利用方法)は自動車を中心に考えられてきたことから、道路構造や自動車利用者の乱暴な運転などのしわ寄せが自転車利用者や歩行者に来るありさまでした。

このような社会課題を受けて、2011年10月には警察庁通達「良好な自転車交通秩序の実現のための総合対策の推進について」が出され、2012年以降は国土交通省などにおいて道路上への自転車走行空間整備や通行位置標示等に関するガイドラインが整備され、2016年12月には「自転車活用推進法」が制定されました。

このような状況下、「川崎市自転車利用基本方針」の制定および自転車活用に向けた政策の展開は時宜を得た取り組みであるとともに、市民生活を良くすることにもつながると期待しております。

地域の特徴に応じた計画策定と実施について

本案を拝見していると、分担率等の数字をはじめ、全市で均した内容が示されているが、実態としては川崎市域は細長い地形の中に平坦地と丘陵地が混在しており、自転車の利用状況も地域により大きく異なる。また、鉄道がや路線バスが便利な地域と不便な地域でも利用状況が分かれるはずである。自転車利活用を考える上で、地形をはじめとする地域特性を考慮することは欠かせないと思われるが、鉄道駅との関連(拠点地域等)は示されているものの、地形については分担率が大きく異なる図が示されているに留まり、具体策には反映されていないように見える。

一方、例えば上位計画の「川崎市総合都市交通計画」に含まれるコミュニティ交通の施策では、単純に駅からの距離だけではなく高低差を考慮に入れた施策展開がされるようになっている。

自転車についても、高低差はもちろん、傾斜の程度、道路構造の(自転車利用者から見た)良し悪し、駅からの距離、近隣にバス停が無いまたは本数が少なく不便、などの違いにより利用状況が変わると思われる。

例えば、府中街道に並行する二ヶ領用水沿いの道路など、主要道路に並行して河川等がある場所では、河川等に沿う道路における自転車利用が多い傾向がうかがえる。このような場所では河川沿いの道路で自転車が走りやすいように交通規制を変更するといった取り組みも考えられる。

もうひとつ例を挙げると、本計画に示されている鉄道駅へのアクセス手段としての自転車利用についても、例えば本案中「地域自転車ネットワーク構築エリア」で示されている表中で対象外とされた駅の中で最も上位の二子新地駅は、買物等での利用は少ないが、鉄道利用者の二次交通としての利用が高い。単純に近隣が平坦地というだけではなく、工場跡地などでのマンション開発により人口が増え、路線バス利用が不便な地域(宇奈根および久地、北見方などのうち多摩川に近い地域)からの利用が多いようだが、これらの地域から駅への導線が細く、国道246号や第三京浜道路などにより分断されているといった特徴がある。

このように地域ごとに特徴は様々で、自転車の安全な利活用には地域の利用者の視点が欠かせない。

優先順位をつけて、まずは「川崎市総合都市交通計画」が定める拠点地域から着手するとするのは良いのだが、今回新規で取り組まれる自転車の利活用は、取り組み蓄積のあるコミュニティバスなどとはまた違った特徴があると考えられるので、同時に自転車の利用状況の調査や分析はもちろん、自転車を日常的に利用している市民や地域団体・市民団体との意見交換なども行いながら、本計画をより良く修正・改定してゆく取り組みも必要になると考えられる。

本案は市役所のみで策定されたようだが、今後の市民の利用実態の調査や市民意見の取り込みなどを含め、計画の実施段階でのPDCAをどのようにするのかを、本計画に示しておくべきではなかろうか。

自転車ネットワーク計画について〜一次交通手段としての自転車利用環境の整備を

自転車ネットワーク計画について、本案では鉄道駅周辺(地域自転車ネットワーク)と多摩川軸が示されているが、それだけに留まらず、地域ネットワークをつなぐ広域自転車ネットワークの整備にも取り組んでいただきたい。

本案では、自転車の利用距離は通勤通学で4km未満、買物等私事で2km未満が多く、鉄道駅からの二次交通手段としての利用が多いから、ネットワーク計画も鉄道駅を中心とするとある。それは良いのだが、一方で本来は自転車で行きたい所へも、道路構造の問題により自転車で行けないといった声も、本会には寄せられている。

例えば津久井道(世田谷通り)では、自動車が多く不快で危険を感じる、並行する五反田川沿いも自転車で走るには不適のため、買物や図書館・市民館等へ行くのに自転車を利用しづらいといった声も聞かれる。

本案では、地域ネットワーク以外が多摩川サイクリングコースのみになっているが、実態としては二ヶ領用水、平瀬川、片平川・麻生川など川沿いの道路も自転車に利用されているし、府中街道、綱島街道、津久井道なども自転車走行空間が整備されれば利用者は増えるであろう。

地域ネットワークだけで満足することなく、地域ネットワークをつなぐ主要道路やその並行河川沿い道路等への自転車通行環境整備を求めたい。

関連して、主要道路に並行する道路については、自動車が増えては本末転倒になるため、自動車を増やさない規制(軽車両を除く一方通行など)を同時に実施していただきたい。

自転車利用者が安全を感じられる道路構造への改良を

本案では既存の整備事例が紹介されているが、このうち綱島街道のレーンは速度規制が50km/hの道路に対し自転車車線の幅は最少限しかなく、通行する人が危険を感じる場面が多いと聞く。

本案p19でも示されているように、自転車は車道の左側を走ることが最も安全になるのだが、自転車に乗る人が恐怖心を感じるような道路構造では正しく走ってもらいづらい面もある。

本案には通行帯の幅といった、自転車通行空間の質に関する規定が無いようだが、一般の自転車利用者が圧迫感や恐怖心を覚える原因は自動車の速度と間隔であり、自転車通行帯に十分な幅が取れない道路では制限速度を下げる、車線数を減らして幅を確保するといった措置を同時に行うよう求めたい。

自動車駐車場の自転車駐輪場への転換を

自動車駐車場については比較的早くから駐車場法やその関連条例の下で整備が進められてきたが、それに比べて自転車駐輪場の整備はまだ不十分な面がある。とりわけ都市部の駅前では駐車場に余剰が生じ、過剰な駐車場が無駄な自動車利用を呼び込む遠因にもなっている。

近年、駐車場附置義務が見直され、削減されているが、それ以前に整備された過剰な駐車場については、それを自転車駐輪場に転換するための制度的支援を求めたい。

また、本案には駐輪場の収容台数に余剰があっても路上駐輪があるという資料があるが、これは例えば通勤通学向けの駐輪場と買物等施設利用の駐輪場など、用途ごとに見ないとあまり意味がない。今後は用途毎など細かく分析することで、整備と需要が一致するよう求めたい。

ルール教育について

自転車は正しく走れば比較的安全な乗り物だが、誤った走り方をすれば危険性は低くない。しかし本案でも示されているように、ルールは知っていても守られない側面があるようだ。運転免許の有無と違反にあまり相関がない(免許を持っていても違反が多い)という指摘もされている。残念ながら、今は大人が率先して右側通行をして、子どもがその後ろについて行くなど、大人が悪い見本を見せてしまっている事例も少なからず目にする状況にある。

こうした状況で、本案で示されている、成人に対する教育の場の提供は大変有意義なものであり、大いに期待したい。

一方で、ルール普及は動機付けが難しい側面もある。一般市民に向けて講座等を設けても、なかなか参加が得られない面もある。市役所が率先することで参加者を得るための動機付けを与えられるなら期待したい。

また、講習等の受講者を比較的集めやすい企業向け、町会・自治会向けに広報し、講師の派遣や教材の提供などで支援をするような取り組みにも期待したい。

もちろん、小中学校での取り組みや、自転車店の協力にも期待したい。

ところで、本案で例示されているスケアードストレートは、いたずらに恐怖心を植え付けるばかりで、安全な利用への効果は薄いという指摘も聞かれる。あれはダメこれたダメという安全教育ではなく、どのように走れば安全に走れるのかを指導するように心がけていただきたい。

レンタサイクル・コミュニティサイクルについて

本案でも示されているように、自転車は保有するだけでなく、借りて利用するスタイルが定着しつつある。出先での二次交通手段として、観光で、また近頃では集合住宅等で駐輪場所を確保できなかった家族の共用自転車の替わりとして、利用されているように聞く。

自転車保有率が高い裏返しなのか、残念ながら川崎市内ではレンタサイクルが非常に少なく、利用したくても利用できない状況にあるが、業務や観光はもちろん、保有自転車の代替としてのシェアサイクルを含めた導入にも取り組んでいただくことで、自転車利用の幅が広がるものと期待したい。

自転車に係わる様々な部署・役所の役割と責任の明確化を

本計画の実施に当たっては、自転車に係わる様々な部署・役所の調整・連携が必要になると思われる。道路管理は建設緑政局で良いが、まちづくり局交通政策室が所管する「川崎市総合都市交通計画」が上位計画に位置づけられているし、制限速度や一方通行、信号などは神奈川県警察になる。また教育・啓発は学校であれば教育委員会、町会・自治会等が係わるなら区役所の協力が欠かせない。

本計画においても、その実施を担保するために、建設緑政局や交通政策室、区役所など関係する部署がどのように係わっているかを示すとともに、県警などとの協力体制をどのように構築するかも示し、取り組んでいただきたい。

以上

参考


持続可能な地域交通を考える会 > 意見・提案 > 「川崎市自転車利用基本方針(案)」に関する意見書

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