「川崎市地域公共交通計画」の改定素案に関する意見

2026年01月07日提出
持続可能な地域交通を考える会 (SLTc)
代表 井坂 洋士
 
〒211-0004 川崎市中原区新丸子東3-1100-12
かわさき市民活動センター レターケース5
 

電車や路線バスなどの公共交通は幅広い市民生活・地域経済に便益をもたらす重要な社会インフラでありながら、一部の乗客の運賃負担に依存する維持形態になっているなど、構造的問題を有しています。人口が集積し、電車・バスが盛んに利用されている川崎市域では一部地域を除いて悪影響は軽微でしたが、2020年以降のいわゆる「コロナ禍」を経てその矛盾が露呈し、路線バスの運転手不足、減便と混雑、さらに度重なる運賃の値上げといった、深刻な悪影響が表面化しています。

これまでの川崎市の地域公共交通計画では、主にコミュニティバスや乗合タクシーといった枝線の運行に取り組まれてきましたが、今回の改定素案では「バスネットワークを守る」が筆頭に挙がるなど、幹線にまで問題が拡大していることが反映されていました。

短期的には本案で示されている個々の取り組みのいずれもが大変重要なものと認識しており、着実に進めていただきたいと思うのですが、一方で「コロナ禍」から丸6年も経った今になって「バスネットワークを守る」取り組みを始めるのでは遅きに失した感がありますし、そのバスが結節する基幹的交通網である鉄道にも運賃値上げや人員削減(ワンマン化)による混雑・遅延等がすでに発生している状況であり、従来の後手後手に回った対症療法的な取り組みだけでは不十分と感じているところです。

川崎市の強みである都市の利便性を失わせず、将来にわたって伸ばしてゆくために、本案で示されている個々の取り組みに加えて、抜本的に公共交通網を維持活性化する下記の施策を取り入れていただき、実施されるよう求めます。

連接バスの導入

例えば隣の横浜市では、交通政策として横浜市が購入した連接バス車両を民間事業者に提供し、高頻度運行している幹線バス路線の輸送効率を高めることで乗務員を確保し、枝線の維持・増便に充てています。

連接バスを導入することで乗務員1人で運べる乗客数が増えますから、連接バスの導入は路線バスの乗務員不足に即効性のある対策になっているのです。

川崎市では臨海部活性化を担う部署が主導して、通勤の快適性向上を目的に連接バスが川崎駅(東口)〜水江町に導入されましたが、高頻度運行している幹線バス路線は他にもあります。

連接バス車両の運行は京成バス(千葉市)や神奈中(藤沢市、厚木市、町田市、横浜市)などで長い実績があり、町田市相原など狭い道路にも走っていますから、川崎市は既にだだっ広い道路がある川崎区臨海部は言うまでもなく、高津区・宮前区(溝口駅南口〜神木本町方面)を走る市バスなどの比較的道路が狭い場所にも積極的に導入すべきでしょう。

本案でも連接バスの導入が謳われていますが、川崎市にも高頻度運行しているバス路線がありますから、交通政策として、幹線バス路線に連接バスを導入し、その成果を枝線の増便等により乗客に還元するよう求めます。

また、バス路線の乗り継ぎを伴う再編を行う場合には、追加の運賃負担を生じさせないなど、乗客の負担を増やさず、乗客を増やす仕組みとするよう求めます。

シェアサイクルの拡充と他の公共交通機関との連携

本案には新たに「モビリティステーション」が登場しました。それはそれで進めていただくと良いとは思いますが、数箇所に新設しても効果は限定的でしょうし、実験としては意義があると思いますが、既存の乗換需要が発生する場所と必ずしも一致していないなど、普及には課題がありそうです。また、運転免許が必要な小型自動車などは過疎地や実験として実施する分にはともかく、人口密集地である川崎市において実用面では様々な疑問が付きまといます。

市内ではすでに自転車が多く活用されているところであり、近年は電動アシストの普及もあって、平坦地に加えて丘陵地でも盛んに利用されています。交通政策室には、ぜひ自転車を活用していただき、例えば既存の市バスの営業所・車庫にシェアサイクルや駐輪場を設置する、商業施設や公共施設に駐輪場およびシェアサイクルの設置を誘導するなど、シェアサイクルを含む自転車とバス・電車の乗り継ぎを容易にする取り組みをするよう求めます。

シェアサイクルは地域により公共交通の一端を担うまでに活用されている場所があります。例えば中原区井田三舞町には商店の軒先に大規模なサイクルステーションが設置されており、シェアサイクル事業者の全国ランキング上位に付けるほど多くの利用があるようです。

当該地域には路線バスがあるものの朝夕のみ数本しかなく、事実上の公共交通空白地域になっていますが、シェアサイクルが貴重な市民の足として機能している様子がうかがえます。

とはいえ、課題もあります。当該地域においては最寄り駅となる武蔵小杉駅、武蔵中原駅および元住吉駅付近のサイクルステーションが不足気味であり、また駅から離れていて案内も無いなど、シェアサイクルを利用したくても利用できない場面も少なくないようです。

また、当該地域付近には市バスの井田営業所もありますが、駐輪場はありません。

シェアサイクルは自転車活用推進室が主な担当になるでしょうが、サイクルステーションの台数が足りないがために借りられない・返せない(あてにならない)、既存の路線バスや鉄道駅にうまく結節できない(そもそも貸出返却場所が無い)といった課題もあります。交通政策室の所管であるバスや鉄道と、政策をうまく連携させる必要があります。

交通政策室には自転車活用推進室と連携してシェアサイクルを含む自転車の利便性を向上させるとともに、電車・バス等との乗り換え利便性向上を図るよう求めます。

また、コミュニティバスが運行している地域では、既存のコミュニティバスの転回場になっている商店等に隣接して幹線バス路線のバス停を設ける(または近隣のバス停を移設して近づける)、乗り換え場所にトイレやベンチを設けるなど、すでに乗り換え拠点となっている場所の利便性を向上させる取り組みも有効でしょう。

【参考】「第3期川崎市自転車活用推進計画(案)」に関する意見(2026年01月05日提出)

LRTなどの軌道系交通の導入

川崎市内では路線バスが盛んに利用されているところですが、昨今の「運転手不足」を理由として減便されてしまい、しかも運賃が値上げされ、公共交通を利用する市民に過度の負担が生じています。

他市では栃木県宇都宮市がJR宇都宮駅から工業団地まで完全新設のLRTを導入し、通勤および沿線住民の移動需要を自家用車から公共交通へ転移させることに成功しました。併せて路線バスを再編し、宇都宮駅へ乗り入れていたバスをLRTに結節させ、運行距離の短縮と渋滞回避により枝線の増便と運転手不足に対応しています。また、LRTとバスの乗継割引を設ける、LRT電停に駐輪場とシェアサイクルを設置するなどの総合的な施策により、負担軽減と利便向上が図られています。

川崎市でも川崎区臨海部では工業地域への通勤と沿線住民の通学・生活利用が重なり、すでに多くの交通需要が存在していますが、路線バスが一手に引き受けている状況です。ここは短期的には連接バスの導入でしのぐにしても、中期的にはLRTなどの軌道系交通を導入するよう求めます。

加えて、既存の鉄道の活用、例えば京急大師線を殿町まで延伸する、南武線浜川崎支線のいわゆる川崎アプローチ線を事業化する、さらに浜川崎から扇町方面へ乗り入れるなど、軌道系交通の拡充を図ることで、路線バスにかかる負荷の軽減と市民の交通利便性向上を両立させるよう求めます。

軌道系交通は計画から供用までに長い年月がかかります。検討すらされていない現状のまま放置せず、今すぐにでも検討を始め、川崎区臨海部へのLRTの導入による公共交通網の抜本的なてこ入れを求めます。

運賃水準と受益者負担(負担を免れている自家用車に負担させる仕組みづくり)

川崎市内の路線バスの運賃は、2023年に1乗車あたり210円→220円に、2025年には250円になり、わずか数年のうちに2割も値上がりしました(民間事業者の例)。

しかも路線バスは一般に運行距離が短く、鉄道や他の交通モードとの乗り換えを前提にしていることが多いので、例えばバスA社→鉄道B社→鉄道C社→バスD社と乗り継がないと目的地へ行けない場合もありますが、乗り継ぐ度に運賃が加算され、市内の短距離の移動であっても高額な運賃負担になってしまう例もあります。川崎市では多くの交通事業者がいますから、乗り継ぎの影響が顕著です。

欧州の都市では公共交通の運賃をゾーン制にし、バスと電車を乗り継いでもいたずらに運賃が上がらないような仕組みを導入している例もあります。川崎市でも乗継割引や市内複数の事業者共通で使える一日乗車券を設定するなど、運賃負担が高額にならないよう配慮すべきです。

そして、もちろん路線バス等に従事する職員の給与を上げることは重要ですが、その負担を乗客のみに求めては、受益と負担の衡平性に適いません。ましてや安易な運賃値上げによりこれまでバスを利用していた人がクルマに乗り換えるようでは本末転倒であり、運賃値上げの前に先ずもって自家用車利用を抑制する必要があります。

鉄道や路線バスなどの公共交通機関が機能していることによる便益は、乗客のみならず広く生じているものです(クロスセクター効果)。にもかかわらず、現行制度では公共交通の維持運営にかかる費用は乗客の運賃負担のみで賄うことが原則となっています。大昔の自家用車がほとんど無かった頃には有効に機能した仕組みですが、今は自家用車を利用する者は混雑緩和等の受益をしていながら負担を免れているフリーライダーと化している側面があります。

自動車の濫用は大気汚染、騒音、気候変動等の深刻な公害を引き起こし、数多の交通事故を引き起こして市民の健康と財産を奪い、さらには渋滞を引き起こして経済活動を阻害し、路線バスや緊急車両、物流等を妨げる原因にもなっています。

英国など欧州の都市では市街地に侵入する自家用車等に Congestion Charge(渋滞課徴金)を課すなど、道路の混雑を引き起こす原因となっている自動車より課徴金を徴収することで、道路の混雑緩和と公共交通の利用促進に貢献していることが知られています。

国内でも隣接する東京都では「ロードプライシング」の導入が検討されていますが、そうした動きと連携してゆき、ゆくゆくは市内を通過する他地域の公共性の低い自動車(自家用車等)より課徴金を徴収し、公共交通の運賃抑制や利便増進に充てるべきでしょう。制度設計等に時間を要するでしょうから、すぐにでも検討を始めるべきです。

また、市民にも応分の負担を求めるため、例えば来店者・通勤者向けの自動車駐車場を設置している商業施設、事業所、コインパーキング等に駐車台数に応じて交通税を課税し、自家用車で来店する者には駐車料金を負担させる(無料駐車させない)など、今はフリーライダーと化している自家用車利用者にも応分の負担をさせるための制度づくりを求めます。

以上

ご案内

本意見書は、本会Webサイトにも掲載しています。
http://sltc.jp/file/2026/01/20260107kawasaki_transit.html


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