神奈川県におかれましては、日頃より神奈川県地球温暖化対策推進条例に基づく計画づくりにご尽力いただき、ありがとうございます。 本会では県の取り組みに期待するとともに、より環境負荷の低く、人と環境にやさしい交通手段が選ばれる地域社会づくりが進むことを願い、県の取り組みに期待しております。今回の素案より盛り込まれた具体策について、下記のとおりご意見を申し上げます。
神奈川県は多くの地域で公共交通の利用が可能であり、また実際によく利用されています。しかし、この数十年で都市計画道路の整備に伴いクルマ利用が便利になったことなどに伴い、マイカー利用が増えて、山間部はおろか近年は都市部でも路線バスの採算悪化に伴う退出が増え、また自転車に乗っていて危険を感じる場面が増えてきました。
今後、運輸・家庭部門の低炭素社会を構築するためには、温室効果ガス排出量のより少ない交通手段を安心・安全・快適に利用できる環境整備が不可欠と考えますし、これは今でも公共交通や自転車の分担率が高い神奈川の特長を伸ばすことにもつながります。
素案の運輸部門の対策で一番に掲げられた「公共交通機関や自転車の利用促進等」はとても重要であり、たとえば交通結節点(乗り継ぎ・乗り換え)をはじめとする利便性・快適性・安全性の向上や、バスレーンの設置等によるバス走行環境の改善、自転車走行空間の充実とネットワーク化、交通需要マネジメントなどは大変有意義な施策であり、これらが具体的に盛り込まれたことを歓迎するとともに、それらの積極的な推進を期待します。
また、これらの政策の実施には、交通事業者、利用者、県や市町村、そして警察と、多くの当事者が係わります。これらの当事者間の協力や、公共交通機関同士の乗り換え利便向上のための運賃を含めた連携を図るための調整役としても、県の活躍に期待します。
本案では電気自動車(EV)等の普及拡大が盛り込まれていますが、これには莫大な費用がかかる割りに、温室効果ガスの削減効果は最大に見積もっても現行の(軽油で走る)路線バスと同程度が上限と考えられており、一方で日本を含む先進諸国では2050年には1990年比80%削減が求められており、つまり自家用乗用車いわゆる「マイカー」に限って見れば電気自動車(EV)化だけでは不十分であり、より削減効果の高い路線バスや自転車、電車などのすでにある代替手段の利用促進をまずもって行うべきです。
一方で、荷物の搬送や路線バス、緊急車両、福祉車両、タクシー(事業用乗用車)、カーシェアリングなどについては、電気自動車化が大変有意義であり、限られた財源を効率的に運用する観点からも、こうした車両・車種に絞って優先的に施策を実施することが妥当であると考えます。
施策の中で「自動車専用道路網の整備」「インターチェンジ接続道路の整備」「交流幹線道路網の整備」などが掲げられていますが、これらは自動車利用の利便性を向上させることから、自動車利用を促進させ、つまり温暖化対策とは逆効果になるおそれがあります。これは、過去に同様の施策が実施された区間において、自動車走行量の変化を把握していれば、増加傾向が見られることからも明らかです。 また、「地域分断・交通のボトルネックの解消」についても、自動車走行の快適性向上につながることから、同様の逆効果が考えられますし、いずれの施策も道路面積が拡大することにより緑地や都市の貴重な公共空間が失われることにつながります。
「交通流の円滑化」が温室効果ガス排出量に与える影響試算では(国においても同様ですが)自動車利用の誘発効果が算入されず、通過台数が一定という前提のもとで試算されてきましたが、実際には誘発効果の影響を受けますので、計画・試算において誘発効果を見込むことが必要です。
この誘発効果を抑えるためには、既に素案に盛り込まれている別記の交通需要マネジメント等を行うとともに、都市計画や交通計画などにおいてマイカー利用を誘発させないための工夫をすることも求められます。道路について言えば、たとえば2車線以上の道路には自転車・バス・緊急車両の専用レーンを設けるなど、誘発需要を発生させず、環境にやさしい交通手段がより安全・快適になるための計画へと見直すよう求めます。
また、これまで歩行者、自転車、公共車両(路線バスや緊急車両など)に的を絞った「交通流の円滑化」施策が、全国的にほとんど行われてきませんでした。神奈川県では歩行者、自転車、公共車両を優先的に円滑化するための施策を先駆けて打ち出していただくよう求めます。
2008年11月、2009年11月に本会より提出した各意見書でも、本素案に関係する意見・提案を差し上げております。併せてご参照ください。
【参考文献】
以 上