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  神奈川県知事 松沢 成文 殿 (環境農政部 環境計画課 御中)  

「神奈川県地球温暖化対策推進条例」(仮称)についての意見書
―交通・自動車に関する地球温暖化対策について―

持続可能な地域交通を考える会
http://sltc.jp/
2008年11月29日  

神奈川県および地球温暖化対策推進方策検討委員会におかれましては、日頃より環境負荷の低く持続可能な県民生活を実現するためにご尽力いただき、ありがとうございます。 本件意見募集に対し、当会で検討した結果、次のとおりご意見を申し上げます。 なお、「斜字」は本文からの引用部分を示します。

自動車交通を減らす対策を強力に推進すること

神奈川県地球温暖化対策推進方策検討委員会の報告書(以下、報告書) p.57 でも指摘されているように、「自動車交通に起因するCOの削減を進めていく必要がある」ことと、自動車交通に起因するCO削減のためには、自動車交通そのものの削減(公共交通機関の利用などライフスタイルの転換)」が極めて重要であると考えます。

家庭部門だけで見ても、自家用乗用車いわゆる「マイカー」が全国の排出量の 1割を占め、「マイカー」を持っている家庭に限って見ると半分以上のエネルギーが「マイカー」で使われており(※1)(つまり「マイカー」を持たない家庭の倍ものエネルギーを消費している)、この分野で対策を行えば大きな効果が期待できます。

走行時に大量のエネルギーを使用する自動車は、地球温暖化(気候変動)をもたらす温室効果ガスの主要排出源になっていますが、その対策は遅々として進んでいません。特に運輸部門・家庭部門(図1)で最大の排出源になっている自家用乗用車いわゆる「マイカー」については、2007年度時点で1990年度比 41.9% の増加になっており(※2)、しかもその大部分が、徒歩・自転車・公共交通からの転換であるとも指摘されています。結果、エネルギー消費量の増大に見合う便益が得られるどころか、むしろ環境汚染(神奈川県の大気汚染は深刻で、中でも川崎市は全国でも最悪水準になっている(図2)し、騒音、ヒートアイランドなどの原因になっている)や交通事故、渋滞による損失などを増加させ、歩行者、自転車利用者、子供、高齢者などの交通弱者に深刻な悪影響を及ぼすなど、害悪の方が増幅している状況です。

このような問題を引き起こす自動車交通を減らし、歩いて、自転車で、公共交通で移動する人が優遇される仕組みをつくることは、地球温暖化対策はもとより、生活の安全・安心や子孫の世代まで持続可能な地域社会をつくる上でも必須のことです。

本件条例案では、交通・自動車対策として「マイカーの利用から公共交通機関の利用への転換」の条項が一番目に盛り込まれたことを、私たちは高く評価しています。

つきましては、まずは本条項を明確に条例化するとともに、ここで謳ったことが実現されるよう、後述の提案もご検討いただきながら、積極的に施策展開されることを求めます。

答申案で明記されている自転車利用の促進を、骨子案にも明記すること

委員会最終案では、交通・自動車対策の中に 「県は、市町村等と協力して、自転車を利用しやすい環境の整備に努めるものとする」 と明記されていましたが、県の骨子案ではこの部分が抜け落ちており、その理由も説明されておらず極めて不可解です。この条文は大変重要であり、復活させるよう強く求めます

自転車の活用が地球温暖化対策に有効であることは、欧州諸国の取り組み事例を見ても明らかであり(※3)、また従来日本の都市部で自転車と公共交通が高度に利用されていた交通体系は、地球温暖化対策はもとより、経済的にも大変優れていると内外から評価されています(※4)。 特に神奈川県では比較的市街地が集積しており、自転車利用に適した平坦な地形も多く、既存の自転車利用者も少なくないのですから、ますますもって自転車の安全・快適な利用をすすめるべきです。

しかし、現状では、自転車が交通手段として明確に位置づけられているとは言えず(※5)、それが自転車利用の支障になっていることから、その問題を改善するため、特に都市近郊や平坦地において下記の施策を実施するよう求めます。

公用車を率先して削減すること

全県民に適用される「マイカーの利用から公共交通機関の利用への転換」を求める努力義務規定が盛り込まれたことは評価しますが、同様の努力義務規定を公務員(県知事、県議会議員、および県・市町村の職員)にも適用し、県職員がまず率先して公共交通による移動をすべきです。

これは、県民への手本を示すことはもとより、施策立案に携わる職員の方に、現状の公共交通や公共施設の立地などが使いやすいものになっているかを体感していただくことができ、もって職員のみなさんが自ら問題点などが見出しやすくなり、よりよい施策の実現にも資するものと期待されるためです。

また、自動車保有台数の削減や走行距離の短縮は、県の財政負担の軽減にも資するものです。職員(人)の移動については専用の公用車を廃止し、原則として徒歩・自転車・公共交通を利用する、小荷物の輸送には拠点間定期便や宅配便を活用する、その上でどうしても振り替えることができない分についてはカーシェアリングやタクシーの利用に切り替えることで、地球温暖化対策に加え、県職員に自動車のコスト意識を持っていただき、もって財政負担の軽減にも資することも期待されます。(※7)

「エコドライブ」は実効性を担保すること

「エコドライブ」は、営業者など恒常的に運転業務を行う者が、ドライブレコーダーなどで運転を記録し、監督者の指導を随時受けることにより、その効果を発揮するものです(※8)。そうした取り組みを行った事業者については数割の節約効果があったとも報告されていますが、「エコドライブ」と呼ばれるものの中には左記のような運行管理・監督を伴わないもの、啓発的なものも含まれており、これについては確かな効果が期待できません。

もし本条例内に「エコドライブ」を盛り込むのであれば、事後検証が可能な形の「エコドライブ」に限り実施するよう条文で明記することを求めます。

「マイカー」以外に限って電気自動車への切り替え施策を行うこと

条例案の「環境にやさしい交通の普及に向けたインフラ整備等」の項目内で、主に電気自動車の普及を念頭に置いたと思われる条文が多く見受けられます。 たしかに、郵便・宅配便などの配達をはじめとする荷物の輸送を伴う業務利用や、路線バス、タクシー、緊急車両、障がい者・高齢者介護などの利用については、他の輸送手段による代替が難しい場合があり、この場合は電気自動車等の利用を促進することで、地球温暖化対策に資すると期待されます。

一方、前述のとおり「マイカー」については徒歩・自転車や公共交通で代替できる場合が多く、仮に代替できない場合でもカーシェアリングやレンタカーなどに切り替えることで、つまり自動車の利用が固定費ではなく走行距離に応じたコスト負担になることで、走行量の削減動機につなげることができます。

そもそも、人ひとりふたり(※9)運ぶために 1t 前後もある車体を動かす乗用車は、動力源が何になろうとも、そもそもエネルギー効率は極めて悪いものです(※10)。しかも、神奈川県内の多くの地域では公共交通が利用可能であり、自転車の利用にも適した平地も多くあります。

ならば、個人等が使用する「マイカー」については電気自動車等の切り替えにかかる公的扶助をすべきではなく、公共交通や自転車への転換をすすめること、それが困難な場合に限ってはカーシェアリングなどに切り替えることを促す政策にすべきです。もちろん、業務利用に関しても、営業など人の移動については同様です。

電気自動車等の普及・利用促進政策については、前述の用途に絞り込んで行うことで、より効果的な環境負荷逓減を実現するよう求めます。

駐車場や道路を減らし緑化を推進すること

自動車は走行空間を大量に必要とし、土地利用の面からも好ましくないと指摘されています(※1)。特に自家用乗用車は全時間の 9割あまりが駐車場に置かれた状態になっており、「マイカー」が増えることはそれだけ多くの土地が駐車場用地に使われることを意味します。

日本の京都議定書に向けた取り組みの中で、LULUCF (Land Use, Land Use Change and Forestry) の悪化、つまり既存の緑地が都市化等により失われていることも課題になっていますが、自動車の増加は道路や駐車場の増加を伴うことから、土地利用の悪化の一因にもなっています。 また、特に川崎市などの人口密集地では、ヒートアイランドの影響が深刻な問題になっています。道路や駐車場が増え、蓄熱効果のあるアスファルト面が多いことが事態を一層深刻にしています。

「森林等の整備と保全」にも関連しますが、上記のような問題を鑑み、たとえば駐車場には割増税を課し、緑地は軽減税とするなど、駐車場や道路を減らし緑地を増やすための具体策を、条例に盛り込むよう求めます。

観光地等で、徒歩・自転車・公共交通で移動する人がより便利になる施策をすること

報告書 p.62 で指摘されているように、観光地などへの「マイカー」の流入を抑制する対策が必要と考えます。各拠点で乗り捨てが可能な貸し自転車の供用や、徒歩・自転車・公共交通で訪れて楽しい観光メニューの推進、インセンティヴの附与など、報告書で指摘されているような観光対策を条例に盛り込むよう求めます。

まちづくり政策と環境政策を連携させること

いくら県民が「マイカー」以外の選択肢を使いたいと思っても、事実上「マイカー」が優先されている状況(道路構造、公共施設等の立地、併設される無料駐車場、取り締まられない違法駐車や速度違反、定時運行に支障を来たしている路線バス、歩行者非優先思想による「交通安全」活動など)を放置していては、環境にやさしい交通手段を選択した県民が損をすることになりかねません。地域交通は日常生活に欠かせないものですから、日々の生活で必要になる交通を「マイカー」に頼らなくても不自由しない、つまり徒歩・自転車・公共交通の利用者が優先され、保障されるまちづくりが不可欠です。

また、報告書の p.58 に「自動車交通によるCO2の排出を誘発するようなショッピングモール等の管理者や大規模なイベントを開催する主催者が、自動車の来場を減らすための配慮(公共交通機関を利用した者に対する入場料割引などのインセンティブの付与等)を行うことが必要である。」との指摘があり、これを受けて骨子案に「多くの来客が見込まれる施設の管理者又はイベントの主催者は、地球温暖化対策指針に基づき、自動車での来場を減らすための配慮をしなければならない。」との条項が盛り込まれたことは評価するものの、実際には大店立地法に基づく指導や条例による駐車場附置義務などにより無料駐車場が提供される場合もあることから、施設の管理者や主催者だけの努力に加え、条例やその運用を見直すことも必要になると考えます。

ついては、「県および市町村の都市計画・まちづくりに係わる担当者は、自家用乗用車に頼らず徒歩・自転車・公共交通利用が優先されるまちづくりに努めるとともに、それに逆行する施策や指導を行わないよう配慮しなければならない」との条文を追加するよう求めます。

徒歩・自転車および公共交通の利用が優先されるまちづくりをすること

前項に関連し、歩く人、自転車や公共交通を利用する人が優先され、安全・安心・快適になるための都市計画・まちづくりをすすめるために、次のような施策を実施することを求めます。

脱温暖化に向けた施策を着実に実施するために、県、市町村、県警など関係主体の協力体制を築くこと

本条例案に盛り込まれた各施策は高く評価できるものが多いのですが、それらを着実に実施できなければ意味がありません。たとえば、川崎市では比較的早期に「環境基本計画」を定め、その中で地球温暖化対策も謳い、交通分野では「バス交通の定時運行の確保」や「自転車道ネットワークの検討」などを行うと明記した(※11)ものの、依然としてバス優先車線には違法駐車がはびこり、自転車道の整備はいっこうに進んでいない、といった状況にあります。

日本の制度的特徴として、権限が分散し、連携体制が不十分であるために、具体的な施策があってもその実施に支障を来たす場合があると指摘されます。 たとえば交通計画で見ると、生活道路の計画は市町村、広域道路の計画は県や国、道路の交通規制は県警と、それぞれ権限を持つ主体が分散しており、仮に市町村が独自に公共交通を優先するまちづくりを行おうと思っても、交通規制をしている県警の協力が得られないといった問題が生じていると指摘されます。

こうした問題を起きにくくするために、県、市町村、および神奈川県警察との仲立ちをし、地球温暖化をはじめとする環境問題を起きにくいまちづくりを進めるための都市計画や交通規制を総合的にすすめられる仕組みづくりを県の責任で行うと明記するよう求めます。

広く県民にご理解いただくための環境広報・広告を行うこと

「地球温暖化対策教育の推進」について、学校や事業所といった比較的教育を行いやすい場面に限らず、広く県民に呼びかける施策を併せて盛り込むべきと考えます。

たとえば交通・自動車対策では、検討会報告でも述べられているように「マイカー」を減らして徒歩・自転車および公共交通の利用をすすめることが重要ですが、幸いにも神奈川県内の大半の地域では電車・バスなどの公共交通が整備済みになっており、利用者の心がけ次第で比較的簡単に移行することができます。 ところが、普段から「マイカー」を使っている人は、たとえ徒歩や自転車の方が便利な短距離であっても習慣的にクルマに乗ってしまうなど、他の選択肢を排除してしまう傾向があるとの研究報告がされています(※12)。

つまり広く県民のみなさんの意識に働きかけないことには、「マイカーの利用から公共交通機関の利用への転換」といった施策が掛け声倒れになってしまいかねません。自動車対策でいえば、「マイカー」は環境に悪く、電車やバスは環境にやさしい乗り物であることを広報し、「マイカー」以外の選択肢を広く県民に意識していただくことが必要です。

そうした事情を踏まえ、「教育」に限らず、広告や広報といった取り組みにも注力すべきです。たとえば公共交通の広告を利用し、すでに公共交通を利用している人にはその選択が今後も続くように、「マイカー」を利用している人には他の選択肢を検討するように、呼びかけることが有効と考えます。既にいくつかの例はありますが(※13)、自治体が主体的に行うことも必要です。たとえば、街中を走る路線バスのラッピング広告などを活用することで、道行く人に幅広く、効果的な呼びかけを行うことができると期待されます。

欧州の諸都市ではすでに実践され、効果を上げていますが、このような広告的手法を採り入れるためにも、「県は、市町村と協力して、環境対策の必要性と具体的な方法を広く県民に訴える広報活動に努めなければならない」との条文を追加するよう求めます。

以 上  


【脚注・参考文献】

担当:井坂 < isaka@sltc.jp >
FAX: 020-4664-6084
持続可能な地域交通を考える会 http://sltc.jp/
〒212-0007 川崎市幸区河原町1番地 かわさき市民活動センター レターケース内

■図1

家庭からの二酸化炭素排出量
―用途別内訳― (2006年)

家庭からの二酸化炭素排出量・用途別内訳 (2006年) (c) 2008 JCCCA
© 2008 JCCCA

■図2

エコ活動による年間のCO2削減量
環境省・神奈川県作成資料より

■図3

平成18年度 PM2.5 測定値濃度比較

■ 本意見書の取り扱いについて ■


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