以下、視察担当者(2名)の感想をまとめたもの。 なお、視察経路は右図のとおり(GPSによる自動記録のため誤差がある)。
意外にも記念乗車が少なかった。1便には2名、その後の乗客も大半が行政や視察関係者。朝の3往復は見ていたが、地元の方の乗車は計7名ほど(協議会含む)で、地元の方々が出てきて見守るようなこともなかった。※
※たとえば大田区コミュニティバス「たまちゃんバス」の運行初日には、近所から多くの人が繰り出して賑わっていたが、今回はそうした様子は見られなかった。
また、そもそも知らなさそうな人も少なくないようで、バス停に立ち止まって説明を読む人を何人も見かけた。沿線へはビラを全戸配布し、回覧でも告知しているとのことだが…
⇒地域の皆さんへの呼びかけが不十分?
町内会掲示板を見ると、皆で応援している雰囲気が出ているところ(高見台地区、右写真)もあれば、告知が掲示されていない地区もあった。温度差があるのかもしれない。 川崎市管理の広報掲示板には全く掲示されておらず、市には努力を求めたい。
バスの塗装が目立たないのが残念。試行運行終了後に車両を売却予定との事なので、塗装などはしにくいのかもしれないが…
通りがかりの地元の方数名に聞き取りを行ったところ、「今は歩けるけど将来は必要だと思うので、今から運行を支えたい」と言う人がいた一方で、必要と言いながらもお金を払うことに抵抗感を漏らす人もいた。今はよくても将来は足として必要になること、継続には地域で支える必要がある事などをもっと伝えてゆく必要がありそうだ。
また、今は健康のためになるべく歩きたい、という意識を持っておられる方もいる。これ自体は良い事だ。たとえば買い物へ行く時は歩き、帰りは荷物があるからバスに乗る。雨が降った時だけバスに乗る…といった需要にも応えたい。今はまだ乗らずに済む人にも協力してもらいつつ、必要な人を中心に皆で支えてゆく仕組みが出来たら良さそうだ。
高石団地は駅からの距離はさほどでもないが、途中の129(?)段の階段(右写真)が大変だという。体力の問題もあるが、恐くて手すりに掴まってしまう、という。一方で日当たりや静かさ、空気などの住環境は良く、気に入っているという話も聞かれた。
若い世代への呼びかけは今後の検討課題とのことだが、当地区の高齢化率は19%。つまり8割の住民にとり無関係ということでは、「地域で支えるコミュニティバス」という雰囲気が盛り上がりにくいし、子育て世代などにとってもコミバスの存在は嬉しいもののはず。他地域の事例では車内が交流の場にもなっているという。せっかくの乗合なのだから、高齢者しか乗れない雰囲気を作らず、地域全体を巻き込んでほしいと思う。
マイカーが欠かせないという意識、生活習慣になってしまっている。生活道路の歩行環境は悪く、カラー舗装では中央の車道が広く取られており(右写真)、人は隅っこに追いやられ、クルマが中央を悠然と高速で走り抜ける。コミバスも途中の待避所で後ろから来るクルマを追い抜かせていた。
自転車を使う人はゼロではないが、少ない。朝時間帯の通勤通学と思われる人を数人見かけた程度で、昼間はほとんど見ない。 生田病院の駐輪場にはオートバイばかりで自転車がほとんど無い。アシスト自転車なら楽に登れる程度の坂道が大半なのだが、自転車を使う生活習慣が無いのだろう。
マイカーが1軒に1台あるような雰囲気。雨の日などはマイカー送迎が増えそうだ。晴れた当日も送迎と思われるマイカーが狭い道路に溢れ渋滞を作っており、幼稚園などの送迎バスが巻き込まれていた。まずは不要不急のマイカーを減らし道路環境を改善することが必要だろう。
歩く人は多く、朝はもちろん昼間も歩く人はいるのだが、なけなしの歩道がある駅前や、カラー舗装の道では、狭いところにクルマが速く走り、カラー舗装にしたことによりむしろ危険を感じる。(朝数回、歩いていてクルマに幅寄せや割り込みをされた。)横断歩道でもクルマ優先になっており歩行者は待つのが当然という雰囲気。平然と歩行者にクラクションを鳴らして脅す悪質なクルマもいる。当地に限った話ではないのかもしれないが、歩く人は虐げられている感がある。
歩行環境は悪いが、路地は道路がかなり狭く、通り抜けるクルマが少ないことで、何とか危険を回避している感を受ける。
地区に商店はほとんど無い(高石団地に酒屋が1軒ある)。買い物は専ら百合ヶ丘駅前(ゆりストアなど)と、5分ほど歩いた先にあるスーパー三和、サンフレッシュ、または読売ランド駅前の各店が利用されているようだ。金融機関は百合ヶ丘駅前に川崎信金、横浜銀行、郵便局、農協がある。
ゆりストア(地元資本のスーパー)百合ヶ丘本店(駅前立地)では、3000円以上買った近隣(概ね1.5km圏内、右写真の範囲)の人に当日または翌日の無料配達サービスを行っていた。地域の声に応えているのだろう。 ゆりストアは健闘していたが、駅前ショッピングモール http://www.yurigaoka-mall.com/ は昼間もシャッターを下ろす店が目立ち(飲み屋かもしれないが…)、アーケードなので薄暗く、駅前商店街としては少々寂しい。
駅周辺は「百合丘駅前商店会」、スーパー三和周辺は「百合丘中央商店会」。その間は徒歩数分程度。商店街が連続する形にはなっており(途中に郵便局や雑居ビルなどもある)人の往来は絶えないが、歩道が狭く坂道。
三和は新旧2館あり、新館には大きく「P250台」の表示がある(右写真)が、実際には駐車場への出入りは少なく、徒歩またはバスでの来店が多い様子。しかし土日はクルマが多いのだろうか…本来は環境にやさしい行動をする人を応援してほしいものだが、実態は環境負荷の高いマイカー利用者に過剰サービスしており、逆のようだ。
昼頃、小田急バス 百02系統 百合ヶ丘駅行きの乗客はほとんどが、スーパー三和前(管理事務所前、右写真)で下車した(その次の駅前まで乗った客はわずか1人)。下車した人はほとんど女性で、年齢層は幅広いが、主婦または高齢者と見える。
⇒王禅寺西・王禅寺東地区から平日日中に買物に来る人の多くが路線バス利用か。
病院は(関係者や通りがかりの人いわく)駅周辺の開業医に行くことが多いという。百合ヶ丘、読売ランド前の各駅周辺に開業医が点在している。
高石4〜6丁目地域は駅からの距離はそう遠くはないが、古くからの団地・住宅地を中心に高齢化が進みつつあり、しかも坂道が多い土地柄、そうした方々を中心に、地域でコミュニティバスが必要とされている様子が感じられた。
一方で、課題もいくつか見受けられた。もう後が無いというような焦燥感にも似た雰囲気を感じた一方、地区全体への拡がりが感じられない地域もある。現時点では、地区住民の8割を占める世代を含めた地域全体で支えるという雰囲気にはなっていないようだ。皆で支えるコミュニティバスという意識をどう盛り上げていくかがひとつ課題になりそうだ。
また、(今すでに困っている人はともかく)他にも選択肢のある人にとっては、3ヶ月後には無くなるかもしれないバスを積極的に利用しようとは思わないだろう。交通手段の選択は習慣によるところが大きい。コミバスを選択肢のひとつに入れてもらうためには、単に知ってもらうだけに留まらず、こうなれば確実に本格運行が始まるという基準や指針を明確に示して、地域の皆さんに目的意識を持って取り組んでもらえるような仕掛けも必要かもしれない。
コミュニティ交通を所掌する交通政策室(旧・交通計画課)でも本地区への支援体制を充実させ、何とか本格運行につなげたいという意識が感じられた。 この地区で取り組みが進んでいる理由のひとつに、既存路線バスとの競合が無いこともあるようだ。しかし逆に言えば特段の理由が無い人は駅まで歩ける距離であり、一般路線バスより高い運賃で乗ってくれるのか。そうした地域特性も把握しつつ、いかに若い世代も含めて理解を得て、たとえば「サポーター会員」だけなってもらう人を増やす、または他からの維持費を入れるなど、支える人を拡げる取り組みが必要では。
もちろん、(当地区とは関係ないが)既存路線バスがある地域ではコミュニティ交通が不要ということにはならない。既存バス路線とはうまく住み分ける、または既存事業者と連携するなどの方策も、他地域での展開に応じて課題になってきそうだ。
ところで、今回、大阪から訪れたテレビ局は「買物難民」に関する取材だという。この問題は経産省「地域生活インフラを支える流通のあり方研究会」でも議論になったようだ。 さらに富山市ではLRTを整備したことで「日中ニコニコと本当に笑顔でおばあちゃん達が乗っている姿を見ることができ」るようになったという。路線バスについては全国的に維持・持続が課題になっており、国土交通省でも「バスネットワークの将来像に関する研究会」を開くなど検討されている。交通だけでは解決できない複雑な課題であるとともに、全国的に必要とされている、明日は我が身の課題だ。
公共交通は私たちの毎日の生活に不可欠な足であることはもちろん、体力維持や引きこもり予防、交流促進といった様々な役割を果たしている。こうした価値の高い公共交通をどのように支えてゆくのか?逆に地域の安全・安心や環境を壊している「マイカー」はこのままでいいのか?今は歩ける人も含めて地域の将来をどう描くのか?近隣で商売する人たちは駐車場は用意しつつバスで来る客は知らぬという姿勢でよいのか?交通だけでなく様々な角度からの取り組みが求められている。