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  川崎市交通局 企画管理部 経営企画課 御中  

「川崎市バス事業次期経営健全化計画(素案)」に関する意見書

持続可能な地域交通を考える会 (SLTc)
2009年 3月03日  

市バスにおかれましては、日頃より人と環境にやさしい生活を志向する市民の足をまもり、市民生活に貢献をしていただきありがとうございます。この度の「川崎市バス事業次期経営健全化計画(素案)」への意見募集に際し、本会として次のとおり取りまとめ、ご意見を申し上げます。

なお、本意見は、昨年7月に本会より「川崎市バス事業経営問題検討会」宛に差し上げた提案書(以下「昨年の提案書」)の内容を踏まえております。 また、「斜字」は計画書本文からの引用部分を示します。

川崎市の総合交通政策を策定し、その中で徒歩・自転車・公共交通の利用促進と「マイカー」利用抑制を明示すること

昨年の提案書では、川崎市として市民の足をどう支えるのかを考え、また環境問題との兼ね合いからも、公共交通の利用促進と「マイカー」利用の抑制が必要である旨、申し入れました。

また、本計画のもとになっている「川崎市バス事業経営問題検討会」の答申においても、川崎市において「総合交通政策」の策定が必要である旨、答申が出されております。

ご存じのように、欧州諸国では都市計画の最上位に交通計画を位置付け、地球温暖化対策などにおいても地方自治体の政策の上位に交通分野での対策を掲げ歩行者の安全確保と自転車・公共交通の利用促進に鋭意取り組まれているところです。 また、欧州諸国の自治体および広域行政において「交通局」は単なる一事業者ではなく、民営・公営を問わず公共交通機関のサービス計画を統合的に定め、住民の生活の足を確保するとともに、交通分野における環境問題を抑制するため、道路交通の需要管理なども統合的に行う行政機関を意味します。 川崎市においても、交通計画を立てるとともに、すべての地域交通の総合計画を所轄する部署を設け、責任と権限を明確にし、実効性が担保された総合交通計画を策定・実施すべきと考えます。

市民、学識委員および国際社会からのこのような要請に対し、川崎市ではどのように応えてゆくおつもりなのか、ご回答ください。

他の公共交通機関との連携をすすめる施策を盛り込むこと

路線バスは単体で役割を果たす(出発地から目的地までの全移動を担当する)ことはまずなく、多くの場合は、自宅近くのバス停から最寄り駅まで、または最寄り駅から目的地近くのバス停までをつなぐ役割を担っています。つまり、他の交通手段(主に徒歩、自転車、電車)との併用が前提となっており、これらの交通手段との連携は欠かせません。

利用者から見ると、路線バスはバス事業者間での競争で選ぶのではなく、他の交通手段(自家用乗用車、タクシー、自転車、徒歩)との競合の中で選ばれるのです。その中でも特に自家用乗用車いわゆる「マイカー」の増加による交通事故、大気汚染、騒音・振動、ヒートアイランド、地球温暖化、渋滞、緑地破壊といった様々な問題が起きていること(後段も参照)を踏まえて、「マイカー」ではなくバスの利用をすすめることに高い社会的意義が認められています。

こうした状況下、バス事業者間で競争するのではなく、むしろ公共交通事業者が連携してバス・電車の利用をすすめる取り組みが必要と考えます。たとえば他社路線への乗り換え情報を提供する、全社の路線が掲載されたバス路線図を発行する、鉄道事業者にバス路線の情報を提供し駅構内での情報提供を充実させる、他事業者との乗り換え券を発行する(特にバス分担度の高い臨海部)などが考えられます。こうしたサービス向上策を盛り込むことで、バスを選んだ人が安心・快適に利用できるようにすることが必要です。

また、市バスの路線は、鉄道駅周辺の面的交通を担うとともに、たとえば川崎市臨海部や宮前区向丘地区など、鉄道駅(川崎駅、溝口駅)まで 7km 前後もの距離がある路線もあり、それらの地域では幹線交通としての役割も担っています。特に後者については自転車や他のバス路線との乗り換え需要も発生しやすいと見込まれることから、たとえばバス停付近に乗り換え案内や駐輪場を設けるといった工夫も求められます。

安全な運行に役立つドライブレコーダを全車に導入すること

今回の計画で、「ドライブレコーダーの計画的導入」が明記されたことを高く評価しています。ご存じのように、ドライブレコーダはタクシー・トラック事業者などで採用されつつあり、事故発生時の確実な原因究明に資することはもちろん、走行速度や加減速も記録できることから、運転者の危険運転抑制にも効果があり、安全・安心なサービス提供に有効な手段であると言われます。このように高い効果が見込まれ、設置費用も比較的安価なことから、全車への速やかな導入とその活用(後段も参照)を求めます。

具体的かつ実効的な「エコドライブ」実施計画を策定・実施すること

川崎市では、市バスをはじめ「エコドライブ」宣言をしている事業者・個人はいるものの、具体的にどれだけ燃料消費量を削減できたかの検証はされていない状況です。ただ口先でやるやると言っても実効性が担保されないのでは意味を成しません。 そこで、具体的かつ実効的な「エコドライブ」実施計画を策定・実施するよう求めます。

計画では「改正省エネ法に基づきエネルギー消費原単位(軽油使用量÷走行キロ)を平成18年度実績から平成23年度末までに5%削減(毎年度1%)」という数値は示されているものの、具体的な実施体制が示されていません。また、下記のように具体的な取り組みを行った事業者では何割もの削減効果が出ていることを勘案すると、この目標数値を上回る取り組みが求められます。

たとえば、導入するドライブレコーダーを長時間記録型にし、速度や操作などの記録を分析して運行指導をする運転指導員を置くなどの取り組みを行えば、少ない負担で効果的な「エコドライブ」を行うことができます。実際、こうした具体的な取り組みを行った事業者については数割もの削減効果があったという報告がされている反面、啓発的なものに留まった事業者の削減効果はあまり出ていないとの事例分析もされているところです。「エコドライブ」は有効に取り組めば環境対策と経費削減と安全・安心な運行を実現します。スローガンに留まるのではなく、具体的な取り組みを計画的に行うよう求めます。

市を挙げての環境対策の一環として、マイカーを使わない広報活動に取り組むこと

環境対策として低公害バスの導入、たとえば「ハイブリッドバスを〜平成25年度までに目標として30両の導入」する、「平成21年度にバイオディーゼル燃料を試験的に導入」するなどの計画については評価し、着実に進めていただきたいものの、これだけでは充分とは言えません。

たとえば「バイオディーゼル燃料」は量の確保などに難があり、現状では試験運用にならざるを得ません。 また、川崎市では以前より CNGバスの導入必要性が指摘され、川崎市は普及促進モデル地域になっていますが、その割りには導入が進まず、特に内陸部では皆無の状況であり、これまでの取り組みが充分であったのか確認・反省も必要です。

川崎市は全国でも最悪水準の大気汚染地域であり、今ではその主因は自動車排ガスになっています。特に通過交通の多い宮前区などで「川崎市成人ぜん息患者医療費助成制度」申請が目立つなど、交通分野における環境対策は全市を挙げて取り組むべき急務になっています。 増え続ける「マイカー」は交通事故や渋滞を多発させ、路線バスや緊急車両などの公共車両が渋滞に巻き込まれるとともに、貨物車の排ガス公害が悪化するといった問題を引き起こし、道路需要の野放図な増加は緑地や住宅などを減らし、川崎市民の生活を危険で不安で不経済な持続不可能なものにしていますが、つまり地域交通分野で市バスの役割は大きいのです。

川崎市ではいちはやく環境基本条例を制定し、川崎市環境基本計画にて「公共車両優先システム(PTPS)の導入・拡大」や「自動車交通への依存を抑制したライフスタイルの形成」を重点的に取り組むことを定め、具体的には ◆バス路線等の公共交通網の整備、拡充 ◆鉄道交通の利便性の向上による交通手段の転換の促進 ◆自転車利用環境の整備 の必要性が明示的に認められているところです(『2008年度版 環境基本計画年次報告書』より)

ところが、市民への広報・周知は充分ではなく、取り組みの具体化や意識の浸透が進まないことから、こうした取り組みの一層の拡充のため、本会では昨年の提案書でも「交通局が自ら環境広告・イメージ広告を打ち、公共交通の利用を呼びかけること。」を求めました。

路線バスが環境にやさしいと言われる所以は多くの人が共同利用することにあります。この利点を最大限発揮させるためには、何よりも、「マイカー」に乗っている人に、バスに乗り換えていただく利点を伝える必要があります。 もちろん、営業収入の 7割以上を運賃収入に頼る市バスにとって、利用者の増加が即、経営問題の改善に資することは言うまでもありません。 昨年の提案書でも求めたように、マイカーから路線バスへの乗り換えを促す広報活動等を積極的に行う計画を盛り込むよう求めます。

「市バスサービススタンダード」について

これまでも、全停留所時刻表や「市バスナビ」などのホームページ等での情報開示の充実、他事業者に比べて廉価な一日乗車券の周年提供、ノンステップバスの運行時刻表示、ベビーカーの直接乗車対応、上屋・ベンチ設置などに取り組まれてきたことを評価しておりますし、今後は「市バスサービススタンダード」にて、少なくとも1時間に3回の運行を確保すること、パターンダイヤ、定時性確保などが謳われ、高いサービス水準を確保することが重点施策に掲げられたことを歓迎しております。私たち市民生活を支える公共交通として信頼を得るためにも、高頻度運行、定時性、利用しやすい運賃体系、分かりやすい情報提供の 4点は特に重要であり、欧州などでもこの 4点の強化に取り組んで利用者を増やした事例が知られています(フランス・パリ交通公団 (RATP) が定めたバスサービス基準である Mobilien など)。今後とも市民に広く支持される公共交通として、一層のサービス水準向上に向けて取り組んでいただけるよう期待します。

また、たとえば「区役所などへのダイヤ改正等の情報提供を積極的に行」う、「生活路線を維持」する、「コミュニティ交通に〜バス事業者としての協力を行」う、などの計画についても具体化を求めます。たとえばバス停周辺の人が集まる施設にダイヤ・路線図などの情報提供を拡充する、生活路線を維持するために「マイカー」ではなくバスに乗ることの意義を伝える(前段参照)などの取り組みも併せて行うことで、より効果的な施策になるよう求めます。

「経営力の強化」について

増収策の中で掲げられている広告については、この場所を市の広報に活かして広告収入を得たり、「マイカー」ではなくバスの利用を呼びかける広告宣伝にも活用する(前掲)ことを求めます。

一方のコスト削減策については、同じサービスを提供するためにかかる経費を下げる努力をすることは必要ですが、実際の施策運営には細心の注意が必要と考えます。 たとえば、バスを運転する乗務員のサービス水準向上や安全運行を担保するためにも、営業管理委託や職員のいわゆる非正規雇用化を進める計画については、中長期的なサービス水準低下の一因になりかねないとの懸念を持っております。路線バスは市民生活に欠かせない大切で基本的な公共サービスであると考えます。市においては、たとえば既に実施されている利用者アンケートや、今後はモニター制度なども活用して営業所毎(特に市バス直営路線と委託営業路線)のサービス水準を比較分析する、乗務員の安全確保に必要な措置を講ずるなど、サービス水準の維持を大前提とした施策の立案・運用をされるよう求めます。

市民活動団体などとも連携し、経営情報の開示と市民への理解浸透を図ること

市バスではこれまでも民間事業者に比べれば経営情報が開示され、この点は公営交通の大きな特徴であると考えております。今回の計画案では「外部有識者で構成する(仮称)経営アドバイザリー・ボードの設置」が謳われるなど、一層の情報開示を目指すの姿勢には一定の評価をしておりますが、社会的価値の高い公営公共交通事業者であるだけに、ますますの開かれた経営を求めます。たとえば鉄道事業者では多く開示されている乗車人員状況をはじめ、いっそうの情報開示をされるよう求めます。

また、公共交通に対する市民の理解をすすめ、私たちの生活に欠かせない地域交通を乗って残すという意識を高めるためにも、市民活動団体などとも連携する窓口を設けていただけるよう求めます。

以 上  

持続可能な地域交通を考える会 http://sltc.jp/
 代表 井坂 洋士
 
〒212-0007 川崎市幸区河原町1番地 かわさき市民活動センター レターケース内
[E-mail] query@sltc.jp [FAX] 020-4664-6084

※本意見書は当会ホームページでもご覧いただけます: http://sltc.jp/file/2009/200902kawasakibus.html