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高速道路値下げ・無料化の問題点
2009年11月08日(日) 環境・交通・まちづくり市民フォーラム2009
高速道路料金「無料化」「値下げ」の経緯
- 民主党(当時は野党)が、高速道路無料化(2003年頃〜、山崎養世氏の主張を主な根拠とする)や「暫定税率」撤廃を掲げる(さらに2008年からは、それ以前の方針を翻す「ガソリン値下げ」を謳いはじめた)。
- 自民党・公明党(当時の政権与党)は、「エコカー」減免税や高速道路料金の貨物車夜間3割引、乗用車土休日上限1000円(実質3割引)で対抗(2008年、自動車産業からの要請とも報じられている。)
このとき、他の交通手段への影響への配慮は皆無。総合的な交通・環境政策が存在しない状況で、与野党は単にクルマ利用促進策で競い合っていた。
「高速千円」(実質3割引)の影響
わずか半年ほどの限定値下げだけで、下記のような深刻な影響が顕れている。
- 鉄道・高速バス・フェリーに深刻な悪影響
- 高速バスの不振が一般路線バスの縮廃に発展
- JR旅客各社の利用者・運賃収入が軒並み悪化、特に郊外の定期外・特急利用に深刻な影響(JR西日本では2009年4〜6月の定期外運賃収入が前年同期比11.8%減=右表、他社でも同様の傾向が見られる。)
「高速値下げ」が引き起こしたもの
「経済効果」と呼ばれるもの
- □ 観光客の増加
- 高速道路IC付近などクルマで訪れやすい一部の観光地・SCへの来客が増加する反面、鉄道が便利な観光地や駅前立地のSC、高速道路ICから遠い場所、大都市近郊の観光地(箱根など)では減少。
- □ 消費増
- ガソリンは売れているようだが、果たして良いことなのか?
観光地では日帰り客が増加し、土産物店では高速道路SAでの売上は増えても国道沿いや駅前立地では減っていると指摘される。さらに、地方の雇用を支え、地域の自立に欠かせない交通産業(鉄道、バス、タクシーなど)には深刻な悪影響が出ている。
仮にいくらか目先の消費が増えたとしても、雇用を支える効果は低く、化石燃料への依存度が高まれば所得が海外流出し、むしろ可処分所得の減少につながりかねない(環境省「地球温暖化対策地方公共団体実行計画(区域施策編)策定マニュアル」4-93)。
- □ 自動車販売台数増
- 米国の「グリーン・ニューディール」など、世界で環境対応型の産業構造への転換が競われている中、極めて環境負荷の高い「マイカー」を売る特定産業や、それに依存する商売にばかり税投入までして儲けさせるべきなのか?
税金も時間も限られる中、むしろ産業構造の転換を促す方向に振り向けるべきでは。
悪影響
自公政権が実施した「高速値下げ」は、奇しくも「高速無料化」が交通手段の選択に大きな影響を与えることを示唆する社会実験となった。クルマ利用が割安になったことで、
- ■ 安易なクルマ利用を誘発し、不要不急なクルマが増加した
- →渋滞の発生・悪化 →緊急車両や路線バス、生活に必要な貨物輸送の運行に支障
→道路建設圧力 →公害が拡大し、「無駄な公共事業」を増やすのでは?
- ■ 鉄道、バス、フェリーなどの利用者が減少した
- →経営悪化 →減便・廃止、サービス悪化 →交通不便地域が増え、クルマ依存が進むのでは?
この結果、公害の悪化や交通事故の増加を引き起こし、歩行者や自転車・鉄道・バスの利用者はますます不便・危険になり、CO2も増える(運輸調査局は「高速千円」の影響で CO2は年間204万トン増加すると推計)といった悪循環が生じかねない。
しかも、こうした影響は数字になって表れるまでに数年かかる。
「無料化」は「値下げ」の延長
自動車利用にかかる負担の軽減効果について言えば、「無料化」は「値下げ」の延長であり、「無料化」すれば4割が「クルマ利用を増やす」意向を示したとの調査結果もある(日本経済新聞社、8月下旬実施)。
また、「家計負担減」が謳われているが、1世帯当たりの「有料道路料」年間支出が平均8923円(平成20年家計調査)に対し、「無料化」すると毎年必要になる財源(1.3兆円、民主党マニフェスト2009より)は1世帯あたり26000円ほどになり、明らかに矛盾する。さらに自動車取得税・重量税やガソリン軽油等の減税(年間2.5兆円、同)も謳われているが、これらの負担は、クルマに頼らず環境にやさしい生活をする人や、クルマを買えない低所得者、エネルギー価格上昇が見込まれる将来世代に、より重くのしかかる。
問題提起の動き
NPO・市民団体の動き
- 2008年10月31日 持続可能な地域交通を考える会 (SLTc) ほか
- 「高速道路料金の大幅引き下げの差し止めを求める緊急共同声明」
- 2009年 7月25日 クルマ社会を問い直す会ほか
- 「高速道路無料化及び暫定税率撤廃についての意見書」
- 2009年 8月 5日 気候ネットワークほか
- NGO共同声明「高速道路無料化・自動車関連諸税の暫定税率廃止に、反対します 〜高速道路無料化・割引は撤回し、暫定税率は炭素税などにシフトを〜」
- 2009年10月27日 MAKE the RULE 主催 議員会館内勉強会
- 「運輸部門での排出抑制のための交通政策の現状と課題」――講師に上岡直見氏、伊藤康氏。
シンクタンク・学識経験者からの反応
- 環境自治体会議 環境政策研究所・上岡直見氏
- 8月より『「高速道路無料化・暫定税率廃止に起因する環境・社会影響」検証ペーパー』『自動車燃料の暫定税率廃止に伴うCO2増加検討』『交通部門中期シナリオの概略検討』などを発表。
→ http://sltc.jp/an2009.html#an20090812
→ http://www.kikonet.org/iken/kokunai/2009-08-21.html
- 上智大学・有村俊秀氏、日本学術振興会・岩田和之氏による分析
- 春の大型連休(4/25〜5/06)の東名高速に限った分析で、プラス効果とマイナス効果を差し引きし、最大5億円近くの社会的損失が生じたと試算。
交通事業者からの訴え(10月中の国交相への反対要請のみ抜粋・要約)
- 2日、30日――JR7社
- 「高速値下げ」では旅客6社で年間250億円減収見込み、貨物も深夜割引により年間40億円の減収が生じている。「無料化」なら750億円減収が見込まれる。
- 8日――日本旅客船協会・日本長距離フェリー協会
- 「高速値下げ」で今年4月以降のフェリーの旅客・自動車輸送は、本州〜四国・九州航路、四国〜九州航路では前年度比20〜50%減。瀬戸内海の沿岸各地を結ぶフェリーは、すでに4社5航路の休廃止が確定している。「無料化」すれば壊滅的打撃を受け、航路の廃止・縮小が相次ぐ。総合的な交通体系はどうあるべきかという大きな視点で改めて再検討するよう要請。
- 19日――日本バス協会
- 「高速値下げ」で高速バス大手14社135路線の3月以降の土休日の利用者が前年同期比9.3%減(平日は同4.3%減)、しかも渋滞により遅延が多発。「無料化」すればバス、鉄道、マイカーによる役割分担が根底から崩れて公共交通体系を損なう恐れがある。
…しかし、こうした取り組みはまだ限定的で、報道もあまりされていない。
交通・環境分野で活動する他のNGO・市民団体、事業者などへの拡がりが必要。
>> 「高速無料化」「ガソリン値下げ」は悪影響が大きいことを伝える世論喚起を <<
交通・環境分野の市民団体に参加・協力し、団体間の連携・協力を!
個人でも口コミ、新聞読者欄への投稿、ホームページなどで訴えを!