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警察庁「道路交通法施行令の一部を改正する政令案」等に関する意見

2025年05月24日提出
持続可能な地域交通を考える会 (SLTc)
代表 井坂 洋士
 
〒211-0004 川崎市中原区新丸子東3-1100-12
かわさき市民活動センター レターケース5
 

車両の危険性を考慮しない罰則規定は国民の危険意識をミスリードし不適切である

道路交通法はその目的筆頭に明記されている通り、道路における危険を防止することが本来の目的であり、今回示された反則金とは、その目的を達するための手段であるはずである。

そして、車両の危険性、すなわち事故発生時の衝撃力は、速度×速度×重量で決まる。

法本来の目的に照らせば、おのずと危険性に応じた差異ある責任となるべきである。

ところが今回の改正案では、軽車両の自転車と「原動機付自転車」を安易に同一としており、まずこれは不適切と言わざるを得ない。

「原動機付自転車」と呼んでいるが実態としては自動二輪の軽量版であり、速度と重量は自転車(軽車両)とだいぶ異なっている。これと自転車をいっしょくたにして反則金を設定しては当該車両の危険度に応じた負担になっておらず、転じて速度と重量に勝る原動機付車両の危険性を軽視するものであり、適切でない。

ましてや自動車と自転車ではその危険性に天地の開きがあるが、例えば別表第六の四の「速度超過」(高速三十以上三十五未満)で見ると、普通車2万5千円に対し自転車は1万5千円にするという案になっており、当該車両の危険性に比して自動車を過剰に低く、自転車を過剰に重く罰するものとなっている

車両の危険性、つまり事故時の衝撃は【速度×速度×重量】で決まる。

仮に普通車の重量を1トン(乗員・荷物を含む)、自転車を100kg(同)とすると、自動車の衝撃力が時速30キロ×30×1(トン)=900に対し、自転車の衝撃力は30×30×0.1(トン)=90であり、10倍もの開きが生じる。この危険性を国民に認識してもらうためには、自転車の反則金を1万5千円にするのであれば、普通車は15万円に設定せねばならない。

または、普通車が2万5千円なのであれば、自転車は2500円程度に設定すべきであろう。

一般には、重い罪には重い罰則が、軽い罪には軽い罰則が科されると理解されるし、市民の間では防犯目的で、罰則の「罰金××円、過料××円」などを用いて罪の重さがアピールされる場面が多々ある。

道路交通法の目的は「道路における危険を防止」することが筆頭であるから、危険性すなわち事故時の衝撃力に応じた罰則規定とすることで、法の目的である「道路における危険を防止」に資すると考える。

ところが今回の案で警察が自転車の罰則をその危険性に比して高く設定することになれば、自動車の罰則を軽く見せる効果を生み、市民の防犯意識を狂わせ、ひいては道路交通法の第一の目的である「道路における危険を防止」する効果を毀損するおそれがある。

このように見ていくと、自転車を過度に罰し、普通車の罪を軽く見せる効果を生じさせる今回の警察庁が設定した反則金の額は、危険性の実態と乖離しており市民の理解を得にくく、ミスリードすることにもなりかねず、極めて不適切と言わざるを得ない。

とりわけ道路交通において車両の危険性は【速度×速度×重量】で容易に測ることができるのだから、道路交通法の第一の目的である「道路における危険を防止」するためには、面倒だから原付と同じでいいや、などという手抜きをせず、車両の危険性に応じた反則金を精査した上で設定しすべきである。

自転車への「放置駐車違反」は自治体と警察の二重行政となり不適切である

今回の案には、別表第六の七「放置駐車違反」などにおいて自転車にも反則金を課すとされている。

しかしながら、自転車に関しては1980年(昭和55年)の「自転車の安全利用の促進及び自転車等の駐車対策の総合的推進に関する法律」を受けて既に基礎自治体等が「放置自転車対策」を実施しているところであり、実際に路上では自転車の「放置駐車違反」に限って積極的に撤去等の対策が行われている。撤去された自転車の持ち主は一定期間自転車を利用できなくなるのみならず、保管場所に出向いて保管料などの名目で反則金を支払っている状況にある。

このように、自転車についてはすでに基礎自治体等が積極的に取り締まりに類する対策を実施しているところであり、さらに警察が反則金を課すことになれば実態として二重に罰則が課されることになり適切でない。

一方で、自動車は警察署や交番のそばにすら平然と違法駐車が常態化しているありさまであるが、自動車等(自転車以外)に対しては基礎自治体等の権限が及ばないので、黙認されてしまっている実態がある。警察はもっと自動車の違反行為についてレッカー移動等の取り締まりを積極化すべきであろう。

また、この項目は道路交通法の「交通の安全と円滑を図り、及び道路の交通に起因する障害の防止」を目的としているところであろうが、反則金の額を見ても、別表第六の七を例にすると、普通車が1万8千円に対し、自転車は1万円となっている。

しかし実際に道路空間を占有する面積や、自転車は軽く人手で容易に動かせるが自動車は専用のレッカー車の出動が必要になることなども考慮すると、この反則金の額は自転車に対し異様に重すぎる(または自動車に対し異様に軽すぎる)と言わざるを得ない。

すでに自転車は厳しく取り締まられている傍ら、自動車の違法駐車は黙認されている実態が各地で見られるところであるが、さらに本案では自転車を二重に罰し、反則金額でも自動車の違反行為を軽視する姿勢が透けて見えてしまったので、道路交通法の本来の目的に反する不適切な態度と言わざるを得ない。

警察はむしろ自動車の駐車違反に対する反則金を引き上げる、取り締まりを強化する、それができないのであれば自転車同様に自治体に移管するなどして、まずもって自動車の放置駐車違反を排除すべきである。

警察はまずもって自動車の危険性を排除し、自転車の活用を推進すべきである

これまでも我々は日々歩いて、自転車や電車・バスに乗って生活に欠かせない移動をしている市民に寄り添う活動をしてきたが、その傍らで自動車に脅かされながら猫の額ほどしかない歩道やドブ板の上を歩かされる歩行者、本来走行すべき車道左側を違法駐車等に占拠されて通行空間すらままならず路頭に迷う自転車といった、我が国の道路構造の歪みを嫌と言うほど目にしてきた。

道路上の安全を第一に願う我々も、自転車のルール普及が重要という思いは一にしているが、弱者優先や責任に応じた負担といった大前提に立たなければ、単なる自転車への嫌がらせになってしまい、罰則の厳しい自転車から罰則の緩い自動車への移行を促進させ、道路は速度と重量で勝る自動車による数の暴力に、歩行者や自転車利用者が蹂躙される場になってしまう。

現に、日本においては先進諸国に比して道路上で歩行中および自転車乗用中に亡くなる方が過半という、本来の危険度【速度×速度×重量】とは真逆の異常事態が続いてしまっている(内閣府『交通安全白書』別添参考「状態別交通事故死者数の状況」)。

クルマが激増し「交通戦争」と呼ばれた1960年代に、警察は自転車の歩道走行を認め、その緊急避難措置がいまだに尾を引いて、車道左側を正しく走る意識の薄い人も少なくない状況にある。速度と重量で勝る自動車が道路を占拠し、そうではない弱い者が端に追いやられて「交通事故」の被害者にもなるという歪な状態が今なお続いてしまっている。

こうしたクルマ優先の交通政策の反省を受けて2017年に施行された自転車活用推進法では、自転車が私たち市民生活にとり極めて身近な交通手段であるとともに、環境への負荷の低減、災害時における交通の機能の維持、健康の増進等に有益であることから、自転車の利用を増進し、交通における自動車への依存の程度を低減することが公共の利益の増進に資する旨、明記されている。

警察においても例外ではなく、自動車を減らし、自転車を増やすための措置を講ずるべきである。例えば一方通行規制がされている道路において自転車は除外する、速度制限やゾーン30、ハンプの設置などにより自動車の速度を抑制する、自治体の自転車ネットワーク計画等と連携して信号機においては自転車の速度に合わせて現示を調整する、といったこともすべきであろうが、実際のそうした取り組み事例は稀にしかない。

そして、もちろん第一に重要なのは「道路における危険を防止」することであるが、これについても極めて危険性の高い自動車の違反行為に対しては甘い反則金を課す傍らで、本案において自転車にはその衝撃力の差に比して重い反則金を課そうとするなど、自動車の違反は軽く見、自転車に対しては厳しく当たる姿勢であることが透けて見えてしまったことに、危機感を覚えずにはいられない。

自転車のルール順守が必要なことは同意見ではあるが、今回の案を施行しては警察は自動車ユーザーに舐められてしまうだろう。このような案を示す前に自動車の反則金を引き上げる、取り締まりを強化するなどして、警察はまずもって自動車の危険性排除の取り組みを強化し、速度と重量で勝る自動車に手本を示させるべきである。

以上

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本意見書は、本会ホームページにも掲載しています。
http://sltc.jp/file/2025/05/20250524npa_bicycle.html


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