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本意見書は、意見提出用Webフォームにて送信した本文をWeb掲載用に整形したものです。参考用リンクを追加しております。

川崎市「コミュニティ交通の充実に向けた今後の取組(案)」に関する意見書

2022年01月14日提出
持続可能な地域交通を考える会 (SLTc)
代表 井坂 洋士
 
〒211-0004 川崎市中原区新丸子東3-1100-12
かわさき市民活動センター レターケース5
 

川崎市におかけては、地域交通の課題解決に取り組んでいただきありがとうございます。人と環境にやさしい地域交通の実現に向けて取り組む本会では、かねてより交通・環境分野に関連する様々な施策を注視しているところです。昨年12月に公表された「コミュニティ交通の充実に向けた今後の取組(案)」(以下、本案)について、下記の通りご意見を申し上げます。

地域住民や事業者の負担軽減

本案は、「地域が主体的に」コミュニティ交通を導入する際の手引きとなっていますが、実質的に、「手引き」に従わないと導入できない(ステップを踏む負担が大きくなる)面もあったようです。

コミュニティ交通の取り組みが広がりに欠ける中、負担が大きくなりがちな地域住民や事業者の負担を極力軽くしてゆくことが望まれますが、今回の改訂により、複雑になっていたステップ0〜4が集約されて、地域住民や事業者の事務的負担が幾分軽くなりそうなことは評価できると考えます。

とはいえ、交通不便地域の多さや高齢者人口の増加に比べ、コミュニティ交通の導入実績が広がりに欠ける中、今回の改訂で満足することなく、地域住民および事業者の負担を継続的に軽減してゆくよう求めます。

費用負担(資金的支援)の拡充

公共交通手段は乗り継ぐことで機能を拡充できますので、乗り継ぎ抵抗を下げる施策は大変重要です。今回の改訂により「既存交通の活用に資する仕組みづくりに係る費用」を支援できるようになり、具体的には他の路線バスやタクシーなどとの乗り継ぎ場所の改善ができるようになることは好ましいと考えます。

また、継続運行のための車両更新などに費用負担(資金的支援)が拡充されることも大変望ましいと考えます。

一方で、川崎市では運行費用への支援が非常に狭い範囲に限られており、運行費用を原則運賃で負担することが求められていますが、公共交通には福祉面・環境面での社会的効果もあることや、自然災害や感染症対策などのリスクが増大していることも考慮し、公的負担を上積みすべきと考えます。

例えば、コミュニティ交通の乗客は高齢者に限りませんから、高齢者割引に加えて通学定期割引にかかる費用負担もすべきと考えますし、煩わしい現金の扱いを軽減するためキャッシュレス決済導入を促進するといった利便増進策も有意義と考えます。また、自然災害や感染症対策などによる一時的な負担増加・収入減への手当ても考慮されるべきと考えます。

沿線住民の交通行動の変容を促す取り組み

公共交通手段は、沿線住民の皆さんの日常生活に組み入れて使ってもらうことで役立つものです。しかし誰しも生活習慣を変えるのは容易ではありませんし、移動の目的は様々ですから、様々なニーズに応える必要があります。

数ヶ月などの短い期間で運行実験をしても、沿線住民の生活習慣を変えるまでに至らず、潜在需要を掴めないまま実験が終了してしまっては本末転倒になりかねません。運行実験は効果的な時期を選んで長期間行うといった配慮が必要と考えます。

また、沿線住民の皆さんの行動変容を促すために、運行実験に合わせて市役所においてモビリティ・マネジメントを実施することで、運行実験の効果を高められると考えます。これはぜひ市役所の役割として実施してください。

他にも、路線バスやコミュニティバスで買い物や受診に来た人には商店・医療機関等が帰りの運賃を負担するといった取り組みもあって然るべきですが、地域住民や運行事業者にとっては負担が重いので、市役所が仲介して、買い物や通院などの目的に合わせた利用者優遇策の実施を促してください。

誰にも利用しやすい公共交通

近年、運行費用を抑えるといった目的でデマンド制(要予約)や会員制などが実施される例が散見されますが、前日までに予約が必要といったことになるとニーズに即応できなくなる、会員制にすることで来街者が利用できなくなるといった課題も抱えることとなり、利用が伸び悩む傾向も見られます。

施設送迎バスについても、例えばKSP(かながわサイエンスパーク)が運行するシャトルバスは近隣住民向けに定期券(会員証)も販売されている珍しい例だと思いますが、多くは当該施設以外を目的とした利用が難しくなりがちで、公共交通としては機能しづらい面があります。

乗り合いマッチングアプリ等のICT(情報通信技術)活用により解決を目指す動きもありますが、まだ実験的な域を出ていません。もちろん実験を進めて課題解決につながるなら良いのですが、場合によっては沿線施設等への予約端末の設置、希望する沿線住民への予約端末の貸出などが必要になるかもしれません。

様々な課題がありますが、ぜひ誰にも利用しやすい公共交通の実現を目指してほしいと願っています。

感染症対策

もとより人口減少によって中期的に通勤通学需要が減少に向かうことが予想されていましたが、2020年からの新型コロナウィルス感染症の拡大(コロナ禍)によって、乗客減が前倒しで急激に起きてしまっており、市内でもすでに路線バスの減便や電車の減便・値上げの動きが見られます。

電車やバスなどの公共交通において感染拡大した例は国内外において存在せず、内閣官房 新型インフルエンザ等対策有識者会議においても喫煙所や飲み会・会食等での感染拡大が確認・懸念されている反面、公共交通機関に乗車中のクラスター発生事例は報告されておらず、マスク着用や会話を控えるなどの乗車マナーによって防げるものと考えられています。

一部では電車やバスを忌避して自家用車利用が増加する残念な事態が起きてしまっているようですが、そうなっては交通事故や公害、運動不足による健康被害を増やすことになり、不幸な人を増やすことはもとより、医療負担を増やして「医療崩壊」にも加担しかねません。

川崎市においても、路線バスの減便等に備えるとともに、巷に広がっている誤解を払拭すべく、自家用車利用の危険性、および公共交通は正しく利用すれば安全であることを広くアピールすべきです。

市役所における担当者の育成

コミュニティ交通の取り組みが単年度で完了することはなく、5年、10年と積み重ねてゆく必要がありますが、どんなに有能でも数年で異動してしまう一般職員のみでは、継続的な取り組みは難しいと考えます。

本格運行に至った高石、野川南台、長尾台などでも息長い取り組みが奏功したと聞いていますし、こうした地域では地域住民がひときわ高い専門性を備えていたり、地域活動が極めて活発であったりしたようです。

裏返せば、市の従来の取り組みでは、専門性が高く継続して取り組める人材が居合わせた稀有な地域でしか、本格運行が実現しなかったとも言えそうです。市民生活に欠かせないコミュニティ交通の取り組みが広がらない一因に、人材の不在・不足があるように思われます。

支援をする市役所においても、公共交通事業の専門性を深く理解し、複雑な法規制や運輸局・県・警察・他事業者などとの調整もこなす必要があることから、国土交通省が選定している「地域公共交通マイスター」になれるくらいの高い専門性を備え、中長期的に取り組むことのできる担当者を置く必要があるものと考えます。

支援するからには、コミュニティ交通に長く継続的に取り組める専門家を、市役所で確保してください。路線バスなどの専門性の高い取り組みができ、少なくとも10年くらいは継続して取り組める技官等を置くなど、地域住民と歩調を合わせて継続的に取り組める専門家の設置・育成を求めます。

「地域が主体的に」コミュニティ交通を導入できない地域への手当て

川崎市では以前より、「地域が主体的に」コミュニティ交通を導入することが所与の条件とされてきました。

しかし、前述のように必ずしも全ての地域において地域活動が活発であったり、交通政策に理解があるわけではありません。だからと言って、置いてけぼりにしていいわけでもありません。

「地域が主体的に」コミュニティ交通を導入することが難しい/できていない交通不便地域において、高齢者に限らず利用できるシェアサイクルなども含めた、コミュニティ交通改善の取り組みを実施してください。

以上

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本意見書は、本会ホームページにも掲載しています。
http://sltc.jp/file/2022/01/20220114kawasaki_combus.html


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