川崎市自転車活用推進計画(改定素案)」に関する意見書

2022年01月04日提出
持続可能な地域交通を考える会 (SLTc)
代表 井坂 洋士
 
〒211-0004 川崎市中原区新丸子東3-1100-12
かわさき市民活動センター レターケース5
 

川崎市内では従前より自転車が日常生活にか欠かせない市民の足として広く活用されているところですが、2020年からの新型コロナウィルス感染症の拡大(以下「コロナ禍」)による行動変容や世界的な自転車需要の高まりも受け、自転車活用政策の重要性が一層高まっている状況にあります。

実際に欧州などでは、道路の自動車走行レーンを削減して自転車レーンと歩道の拡幅を行うなど、自転車の利用促進とソーシャル・ディスタンスの確保に急ピッチで取り組まれていると伝えられています。私たち川崎市民にとっても他人事ではなく、自動車の削減および自転車走行空間と歩行者空間の拡充は急務であり、今回の「川崎市自転車活用推進計画(改定素案)」(以下、本案)が果たすべき役割が大きいと期待しているところです。

以下では、本案で示された個別施策に関して本会の見解を述べさせていただきますので、参考にしていただき、より実効性の高い施策とその実施を期待しております。

※『クルマ社会を問い直す』100号(2020年6月号)「新型コロナウィルスで変わる地域交通〜欧米では市民の健康をまもるために交通分野の対策を急展開〜」参照

走行空間整備の拡充

ここ数年で矢羽(自転車ナビライン)の施工が進んだことにより、これまではクルマに遠慮していた人たちが、自転車が本来走るべき車道左側を走れるようになったといった声が、私たちの元にも寄せられています。

矢羽をはじめとする自転車走行空間の明示は、自転車の正しい走行に大きく寄与していると考えられますから、さらに推進していただくよう求めます。

ところで、本案では、2018年のパーソントリップ調査を引きながら、前回(10年前)と比べて自転車の利用距離が延びていると分析されているようですが、さらに昨今はいわゆる「コロナ禍」もあり、市内での買物等のみならず、健康維持のための運動を目的とした自転車利用も増加しているように見受けられます。

実際、緊急事態宣言下においては多摩川サイクリングコースなどのわずかな走行空間に集中する場面も見られました。

川崎市では通勤通学等で駅に向かう自転車利用を念頭に置いて走行空間整備が進められているようで、こうした鉄道駅への二次交通としての役割は依然として重要と考えますが、同時に、買物や公共施設へのアクセス、健康維持のための運動を含めた利用が拡大するものと考えられます。

2020年の緊急事態宣言下には急遽テレワークになった市民が増えて「「半径2q圏生活」を満喫する人々」が増えたことが実感されました。実際、2020年の民鉄の輸送人員の減少率は東急、京王、小田急の順に高くなっていたようですから、この3社が乗り入れている川崎市民のテレワーク率も相当に高くなっていたと考えられます。

また、緊急事態宣言が解消された後も必ずしも昔に戻ったわけではなく、例えば東急電鉄では「定期券利用客の落ち込みは、関東の大手私鉄の中で最も大きい」とも言われていますが、実際、東急駅付近の駐輪場を見ると、2021年後半になっても、定期利用区画の空きが目立つ一方で、定期外(一時利用)区画が満車になっている駐輪場を多く見かけます。

通勤時間の減少は、余暇や家族と過ごす時間の増加に寄与すると同時に、運動量の減少にも直結します。市民の皆さんには、貴重な運動時間である買物やレジャー等の移動時間をマイカーに乗って浪費することなく、ぜひ自転車に乗って運動量を稼いでほしいと願っていますし、自家用車ではなく自転車に乗る市民を増やすことができれば、健康増進による医療費削減などにもつながるはずです。

多少なりとも通勤が減ったということは、自転車利用を促進することで市民の健康維持・増進を図ることの重要性が今まで以上に高まっていると言えますから、川崎市においては自転車走行空間の拡充をコロナ禍以前の計画の達成で満足することなく、ぜひピッチを上げて前倒しし、さらに拡充するなど、市民の皆さんに自動車ではなく自転車に乗る方が良いと思ってもらえるような道路空間の再構築に取り組んでください。

不適切な啓発サインの訂正

ところで、本案にも登場する「啓発サイン」ですが、現場を見ていると、少なからず不適切なサイン掲示が見られます。

例えば、単路に掲示された「自転車徐行」等の根拠のない不適切な啓発サインが安易に使われている箇所が散見されますが、こうした不適切なサインの掲示は、自転車活用施策として不適切であるばかりか、ルール順守を心掛けている自転車利用者の心を折るなど逆効果にもなりかねません。

実際、私たちはルール普及にも取り組んできましたが、警察と市役所の連名で掲げられているこうした不適切なサインが自転車利用者を混乱させ、正しいルール普及の障害になっている場面にも直面してきました。

「徐行」のサインは歩道等に限るなど、適正な掲示をしていただきたい。 交通法規に則った走行を促すためにも、むしろ逆効果になりかねない不適切なサインの掲示は止めてください。

他方、矢羽の施工により逆走が減ったとはいえ、中には矢羽の意味を理解せず、依然として逆走している事例も見られることから、矢羽が走る方向を示しているといった意味を教える普及啓発も実施すべきでしょう。

需要変化に対応した駐輪場の柔軟な運用

2020年の「コロナ禍」以降、通勤通学向け駐輪場の定期利用区画には空きが見られる一方で、一時利用区画が満車になっている箇所を多く見かけるようになりました。2021年後半には多少戻ったようですが、依然として定期利用が空いている駐輪場も見受けられます。

前述したテレワークの拡大などにより、以前は毎日通勤していた人の出社日が減り、定期利用から一時利用に切り替えた人が一定数おり、定着しつつあるものと考えられます。

今は定期利用と一時利用で区画を分けている駐輪場が多いようですが、昨今の通勤の在り方の変化に、柔軟に対応できない課題があるものと見受けられます。

そこで、定期/一時を区分している駐輪場においては、定期利用区画を一時利用もできるようにするか、定期区画の一部にシェアサイクルを設置するなどして、柔軟に運用できるようにし、市民の働き方の変化に対応できるようにしてください。

買物客向け短時間駐輪場の整備

本案では駐輪需要を生産年齢人口から推計していましたが、鉄道駅に向かう通勤通学需要と、買物客向けの短時間駐輪場では、その立地も利用状況も異なることから、混同せず別個に考える必要があるでしょう。

実際、駅前商店街などの買物客向けの短時間駐輪場には、依然として不足傾向が見られます。

ところが本案では「夕方の短時間での放置自転車」の撤去活動を進めるとされていますが、夕方の短時間の駐輪が増えているのは、そもそも買物客向けの短時間駐輪場が不足していることの裏返しの現象とも見て取れます。本案で買物客向けの駐輪場需要推計を行わないまま、買物客の自転車の撤去活動の促進を掲げるのは、矛盾しているように見えます。

ついては、路上や商業施設・公共施設等への短時間駐輪場の設置を増やすとともに、民間の自動車駐車場を自転車駐輪場やシェアサイクルへ転用する優遇策の実施を求めます。

ラック式駐輪場の改善

本案でも課題として掲げられていますが、電動アシストや子ども乗せ自転車の普及、安全規格の改定などにより自転車が大型化・重量化しているのに、ラック式の駐輪場の中には狭すぎて、または手動2段式などで上部をうまく活用できない等により、収容能力の低い駐輪場が散見されます。

こうした駐輪場では一部のラックが使われない(使えない)状況になっていますが、供給数には数えられているのでしょうから、本案で掲げられている「利用率約86%」の未利用分には、実際には収容不能な旧式ラックが含まれているなど、統計とのミスマッチが生じている懸念もありそうです。

ラック式駐輪場においては、幅を広く取る、平場を増やす、手動2段式においては上部を使いやすくする等の改築を実施し、無理なく100%収容できるよう設備の改修を求めます。

シェアサイクル普及における市の役割

シェアサイクルについては、実証実験で成果が出たことから、本案では「民間事業者の主体による取組を進め」るとされています。運営を民間に任せるのは良いのですが、今後の市の役割が読み取れないことが気がかりです。

シェアサイクルはその特性上、借りたい場所に自転車があることに加え、目的地付近に返却可能場所を確保する必要があることから、サイクルポートの数が利用促進に直結するものです。とりわけ駅付近のサイクルポートは利用が多く、返却場所がないために、利用したくても利用できないことが多いものです。

しかし需要の多い駅前などに新たに十分な数のサイクルポートを確保することは、民間主体ではできません。例えば登戸駅付近や武蔵小杉駅付近は非常に回転率が高いようですが、登戸駅付近でも不足気味、武蔵小杉駅付近は慢性的にサイクルステーションが不足していますし、溝口駅付近では少なさ過ぎて利用が困難な状況です。

実証実験により市街地内の公園等に設置されたサイクルステーションでも、当初よりも設置台数が減らされてしまったことで、返却可能台数が少なさ過ぎて利用しづらい状況が生じています。既存の設置場所でも台数を増やすよう求めます。

運営は今までも民間主体でしたし、実証実験後の本運用に際しても引き続き民間主体で良いでしょうが、市でも設置場所の確保・提供や公共サインの改修、利用増への啓発など、役割があるはずです。実証実験後の市の役割を本案に明示してください。

例えば名古屋市などのように、市の敷地を無償貸与する自治体も増えています。川崎市でも近隣での一定台数の確保などを条件に、公共施設や駅前広場などの市有地を該当シェアサイクル事業者に無償貸与するなど、本格運用後もシェアサイクルの拡大に市も主体的に取り組むよう求めます。

県立公園など県施設への設置が進まないことも気がかりです。県の担当部署にも呼びかけて、市と歩調を合わせて県でも設置するよう求めてください。

また、民間の商業施設や集合住宅・公開空地などに設置を誘導していくことも求めます。 一定規模以上の商業施設は駐輪場の確保が求められる立場ですし、集合住宅は住民に100%の駐輪場を確保できないため、休日のサイクリングにシェアサイクルが利用されているという話もよく聞きます。買物客や住民の利便確保にも資するシェアサイクルの導入を、市から民間に誘導する施策を実施してください。

このほか、国の自転車活用推進本部と歩調を合わせて、公共用地等へのポートの設置促進、サイクルポートへの案内看板の設置促進に取り組んでください。

自転車通勤の推進

国の自転車活用推進本部が提供している「自転車通勤導入に関する手引き」なども参考にしつつ、市役所はもとより、市内の民間事業所にも、自転車通勤を選択可能な制度整備を呼びかけてください。

具体的には、自転車通勤の妨げになっている就業規定の改定や通勤手当の支給を進めるなどして、川崎市内の事業所、とりわけ駐輪場を確保できる大規模事業所においては、自転車通勤できる事業所を100%にすべく、数値目標を掲げて取り組んでください。

自動車対策の強化・徹底

本来自転車等の軽車両が走る場所である車道左側を不法に占拠し、自転車利用者を危険に晒す違法駐車が絶えないが、残念ながら対策が進んでいるようには見えず、違法駐車は減っていません。

免許を受けて自動車を利用しているはずの大の大人が堂々と違法行為を働いているようでは、自転車利用者に示しがつきません。まずは免許を受けている責任ある大人が法律を遵守する/させることが不可欠です。

こうした自動車に対して、本案では啓発に終始しているようですが、そもそも抜本的な取り組みとして、警察に取り締まりを実施するよう求めてください。

また、例えば本案に「脱炭素アクションみぞのくち」の例が掲載されている溝口駅前の商店街には常態的に違法駐車場と化している道路があるが、こうした場所にシェアサイクルや買物客用一時駐輪場を大規模に設置することで違法駐車の排除とシェアサイクルの利用促進を両立できます。

こうした具体策を伴う施策により、啓発に留まらない違法駐車対策を強力に推進されるよう求めます。

自転車を活用した環境負荷の低減に関する取組

本案の「計画の位置付け」に掲載されているSDGs目標のうち、本案にはなぜか「13 気候変動の具体的な対策」が掲げられていませんが、自転車活用は気候変動の具体的な対策としても積極的に取り組まれるよう求めます。

自転車活用は、欧州をはじめ世界の数千都市が参加して毎年開催されているモビリティウィークにおいても主要な取り組みのひとつになっていますし、自転車活用推進法においても「自転車の活用の推進は、自転車による交通が、二酸化炭素、粒子状物質等の環境に深刻な影響を及ぼすおそれのある物質を排出しないものであること、騒音及び振動を発生しないものであること、災害時において機動的であること等の特性を有し、公共の利益の増進に資するものであるという基本的認識の下に行われなければならない。」と定められています。

以上

ご案内

本意見書は、本会ホームページにも掲載しています。
http://sltc.jp/file/2022/01/20220104kawasaki_bicycle.html


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