「神奈川県自転車活用推進計画(素案)」に関する意見書

2020年01月18日提出
持続可能な地域交通を考える会 (SLTc)
代表 井坂 洋士
 
〒211-0004 神奈川県川崎市中原区新丸子東3-1100-12
かわさき市民活動センター レターケース5
 

神奈川県内では従前より自転車が日常生活に欠かせない市民の足として広く活用されているところですが、昨今の「交通政策基本法」や「自転車活用推進法」をはじめとする法制定、東日本大震災後の交通網の麻痺、止まらない気候変動と気象災害の激甚化など、自転車利用促進への期待がますます高まっている状況にあります。

実際に欧州などの環境先進都市では、予てより都市でできる最も効果のある環境対策のひとつとして自転車の活用に取り組まれ、一定の成果が挙がっていることが知られています。私たち神奈川県民にとっても、今回の「神奈川県自転車活用推進計画(素案)」(以下、本案)に掲げられた施策は必要性の高い施策と考えます。

一方で、日本では道路管理が主に市町村、交通管理(規制など)が都道府県警察と権限が分割されていることから、市町村だけでは進めらない自転車活用政策も多く、警察を所管する県の役割は大きいものがあります。しかし、かように大きな県警の役割が、本案からは見えてこないのが気がかりです。

以下では本案で示された個別施策に関して本会の見解を述べさせていただきますので、参考にしていただき、より実効性の高い施策立案とその実施を期待しております。

「自歩道」は自転車通行空間から除外する【関連目標1, 4】

自転車の活用推進に際し、本案の筆頭に掲げられている「自転車を快適に利用できる環境の整備」は不可欠ですが、現状の道路はそうなっていないことの裏返しであるとも言えますので、現状の道路で何が起きていて、どう変えないといけないのか、見つめ直す必要があります。

とりわけ本案でも提起されている交通事故の防止は最優先の課題と考えますが、本案にも示されているように、出合い頭と交差点が、事故件数の2/3以上を占めており、つまりその対策が急務となっています。

自転車が関係する事故で圧倒的に多く、重傷化しやすいのが、自動車が第一当事者になる事故です。自動車事故の3類型「認知ミス」「判断ミス」「操作ミス」のうち、最も多いのが「認知ミス」(見落とし)であり、自動車運転者に常に緊張感を持たせることが、交通安全の鉄則です。

本案で掲げられた自転車通行帯やピクトグラム等の施工は、自転車が車道左側を堂々と走ることで自転車の「見える化」を促すとともに、自動車運転者に対する再教育としても有効であり、全ての道路において実施すべき施策であると考えます。ぜひ県内の全ての道路で自転車が車道左側を堂々と走れるよう、整備を進めていただければと思います。

さて、自動車の運転者に対し、自転車の存在を「見える化」することが、自動車運転者による「認知ミス」を防ぎ、事故防止につながるわけですが、ここで問題になるのが「自転車歩行者専用道路」のうち、歩道を自転車通行可にしたもの(以下、自歩道)です。

これまで「緊急避難」だとして40年近くもの長い間、自転車の歩道通行(自歩道)化が推進されてきた弊害で、自動車から見えづらい歩道通行の自転車が、交差点や駐車場の出入口でぶつけられる事故が多いと指摘されているところです。さらに、自歩道化により自転車が歩道を走るようになったことで、自転車が加害者になる事故が発生するようにもなりました。

増大する自動車との重大事故を減らすとして推進されてきた自歩道化が、本案で指摘されている事故の大半を占める原因になっているわけですが、一方で本案の筆頭に掲げられている「自転車通行空間の整備」において、本案で示されている整備済み区間を見ると、自転車歩行者専用道路がかなりの割合を占めています

歩道を自転車通行可にしたものが大半と考えられますが、これは本来は歩道であり、自転車には常時徐行義務が生じ、本来、自転車はまともに走ることができない場所ですので、自転車活用の推進には不向きな形態です。

また、そもそも歩道ですから、歩行者と交錯による事故の危険を引き上げますし、さらに交差点や出合い頭事故の原因にもなっているものです。

かように様々な問題の原因になっている自歩道(歩道を自転車通行可にしたもの)は、整備済み区間から除外するとともに、既存の「自歩道」を自転車レーン等に改良する施策を求めます。

自動車優先ではなく自転車を優先する仕組みに変えてゆく【関連目標1, 4】

自転車の活用推進により、本案でも掲げられているように様々な効果が期待できますが、一方で県内でも自動車の分担率が高い地域が依然として多い実態があります。

不健康かつ危険で環境汚染の大きな自家用乗用車から、健康的かつ比較的安全で環境汚染の少ない自転車へと乗り換えてもらうためには、従来の施策の延長だけでは足りず、従来(クルマ優先の視点)とは異なる視点(自動車よりも自転車を優先する視点)に立ち直り、大胆な取り組みが必要になると考えます。

この自動車から自転車への乗り換えを大胆に進めて成功した事例として、欧州の環境先進都市の事例が知られるようになってきました。こうした先進事例をよく見ると、単に掛け声だけには留まらず、ハード・ソフトともに様々な施策に取り組まれてきたことが見えてきます。

具体的には、自転車通行帯を幅広く取るとともに、信号待ちの自転車の停止線を前に出す、信号待ちの後には自転車を先に発車させる、自転車の平均速度(20km/h程度)で青信号を連動させるなど、自転車を優先させる仕組みへと、細かな変更が積み重ねられました。

この手法は、人口規模で本県の半分程度、しかも曇りや雪が多く気象条件も本県より圧倒的に不利なデンマークなどで実践され、自転車の利用促進に大きな成果を挙げたことが知られています。

日本では道路管理者(主に市町村)と交通管理者(都道府県警察)が分離されているため、実施するには警察の主体的な取り組みが欠かせません。つまり自転車活用の推進には、警察を所管する県が率先して取り組むことが不可欠です。

県警が率先して、ぜひ自転車がスムースに走れる信号制御を行ってください。安全性の向上につながることはもちろん、自動車から自転車への乗り換えを促進させ、文字通り「自転車活用推進」を実現できるでしょう。

道路の制限速度に応じて自転車通行帯の幅を拡大する【関連目標1】

県条例で「自転車通行帯」の構造基準を規定に向けた検討を行うとありますが、その際はぜひ道路の速度に応じて自転車通行帯を拡幅してください。

自転車利用者の視点に立つと、脇を高速で走り抜ける自動車が大きな脅威になっています。ひとくちに自転車と言っても、利用している人は実に多様で、スポーツタイプの自転車もありますが、買い物帰りの荷物を満載した自転車もあれば、子どもを乗せた自転車もありますし、ご高齢の方も多く自転車に乗っています。宅配や出前、客先回りなどの業務利用も増えてきました。

こうした状況で、自転車走行空間を整備する際は、

を確保することが必要です。

改正された道路構造令において、自転車通行帯の幅は1.5m以上確保することとなっていますが、この1.5mにはある程度意味があるようで、ふらつきや転倒などが起きても自動車と接触しない幅の目安とされているようです。国内では愛媛県警察の1.5m運動(右図)などで準用されています。

ここで注意したいのが、道路端から1.5mではなく、自転車との自動車の間を1.5m以上空けることが必要です。自動車も左端ぎりぎりを走るわけではないでしょうが、1.5mあれば充分だとか、特例を使って安易に縮めようとか、考えないでください。少なくとも1.5m、できればそれ以上、確保してください。

物理法則に従い、衝突時の破壊力は、速度の2乗に比例します。速度が高いほど危険性は累乗で増してゆきます。とりわけ自動車の速度が50km/h以上の道路においては、原則として2m以上確保するなど、道路の状況に応じた幅の確保をお願いします。

違法駐車の取り締まり強化【関連目標 4】

本案では「駐車監視員を活用し、自転車通行の妨げとなる駐車違反を行った者又は違反車両の責任を問う現行制度を引き続き適切に推進します。」とありますが、そもそも現行の取り締まりに課題があるから、違法駐車が後を絶たないのではないでしょうか。

実際、県内のほぼあらゆる道路において、違法駐車が取り締まられない(例えば人が乗っていても違法駐車に違いないのに、人が乗っていると取り締まりが行われない)場面が多く見られるありさまです。市(町村)に移管されたいわゆる放置自転車の撤去はすぐに行われるのに、引き続き県(警察)が所管する自動車の違法駐車は、自転車の何十倍も邪魔で危険かつ違法であるにもかかわらず、相変わらず野放しになっていて、不公平だという声すら聞こえてくるありさまです。自動車の違法行為を見逃す傍らで、自転車にだけ遵法行動を求めても、説得力を持てないでしょう。

警察を所管する県においては、まずは違法駐車の取り締まり強化、特に実態として見逃されている乗員がいる違法駐車への取り締まり拡大を求めます。人が乗っていようがいまいが、違法駐車が自転車通行を妨害している事実とその危険性に変わりはありません。人が乗っていようがいまいが、違法駐車は即時取り締まりを行うよう求めます。

しかし、そのためには民間の駐車監視員のみでは限界があるとの声も聞かれます。現行制度を引き続き推進するだけでは、現状からの改善は期待できないでしょう。民間の駐車監視員に任せきりにせず、駅前や商業施設付近などの違法駐車が常態化している場所では警察官も積極的に取り締まりを行う、警察署や交番の近くでは警察官が違法駐車への声掛けを積極的に行うなど、一歩踏み込んだ取り組みを求めます。

速度違反の取り締まり強化【関連目標 4】

違法駐車と同様に自転車利用者への脅威になっているのが、自動車の速度超過です。

制限速度の超過が常態化しており、制限速度を20キロ以上超えないと取り締まりが行われないといった話も聞こえてきますが、こうした実態が自転車利用者を車道から締め出す遠因にもなっています。現在は「あおり運転」のような暴力行為すら起きていますが、自動車利用者が、速度違反を犯しても取り締まられず、速度の危険性への認識に乏しいことが原因になっていると考えられます。

車両は重量と速度の2乗に比例して衝撃力が増しますので、自動車の速度違反はまさに「走る凶器」となります。速度超過は街中で凶器を振り回す凶悪犯罪だという認識に立ち、速度違反の厳しい取り締まりを行うとともに、免許証の更新などの機会を捉え、自動車の速度の危険性を再教育するよう求めます。

市町村の自転車活用推進計画への全面協力を【関連目標 1, 4】

首記のように、日本では道路管理が主に市町村で、交通管理(規制等)が県警で行われており、自転車活用のような施策の立案・展開に際して障害になる場面があります。

神奈川県警察においても、自転車ナビラインの整備を独自に行う、企業等で出前講座を行うといった前向きな取り組みがされている事例も聞き及んでいますが、一方で市町村がせっかく自転車レーンを整備しても違法駐車の取り締まりが行われない、自治体や町会・自治会、商店会等で自動車進入禁止やゾーン30などを設定したくても警察の同意が得られないといった事例も少なからず見聞きしています。

かように重要な役割を担っている警察について、本案に全く登場しないのが気がかりですが、自転車活用には警察の全面協力が不可欠であることを自覚していただくとともに、警察を所管する県の役割を再認識していただき、まずは本案に警察の全面協力を盛り込んでいただくよう求めます。

県内各市町村、および東京都などとの連携【関連目標 1, 3】

本案にも示されているように、主に自転車利用者の多い市部を中心に自転車ネットワーク計画や自転車活用推進計画の策定が進められていますが、ここで課題になるのは、各市(町村)の中に閉じた施策になりがちで、市境で分断されてしまうことがあります。

とりわけ川崎市や相模原市、大和市、横浜市は市境を東京都と接していますが、市境を越える自転車のことは考えられていない状況にあります。しかし自転車通勤やスポーツ・レジャー利用では、市境・県境をまたぐ自転車利用は普通に行われており、例えば横浜市民が川崎市を通って東京都内に自転車通勤しているような事例も少なくありませんので、政令市においても県の果たすべき役割が大きいと考えられます。

県においては、市境・県境を越える自転車も多いことを踏まえ、自転車走行空間の整備において県内市町村や東京都・山梨県・静岡県とのハーモナイズを図るとともに、県内市町村間で分断される格好になっているネットワーク計画を埋める役割を担っていただけるよう求めます。

シェアサイクルの普及【関連目標 1】

県内では、横浜市の一部地域で自治体整備のシェアサイクル事業(ドコモ・バイクシェア「baybike」)が展開されるとともに、川崎市と横浜市の一部、および湘南地域で民間主導のシェアサイクルサービス(HELLO CYCLING)が拡大しつつあります。

一方で、大磯町のMobikeがサービス開始後に予告なく停止したという話が聞こえてきたり、川崎区および県西地域のドコモ・バイクシェアはポート数が少なく利用しづらいといった課題もあるようですが、様々なサービスが展開されていますので、試行錯誤もありながら、全体では拡大してゆくものと期待しているところです。

シェアサイクルは電車やバスなどと組み合わせての利用に向いており、主に電車やバスで移動している県民や来街者の行動範囲を広げる効果が期待されます。貸出・返却ポートも少しずつ増えてきて、本会会員も利用する機会が増えてきましたし、すでに活用している県民や来街者も増えていることでしょう。

とはいえ、まだまだ県内でも利用できる場所が少なく、また借りたい時に自転車がない、自転車はあっても電池切れなどで借りられないといったこともあり、利用促進にはサイクルポートと台数を増やす必要があると考えます。

ついては、県立公園をはじめとする県の施設へのサイクルポートの設置(場所の提供)を促進するといった具体的な推進策を求めます。

また、例えばドコモ・バイクシェアでは横浜市と川崎市、東京都大田区の境を越えられないなど、行政界で分断される傾向があります。こうした分断を避けるべく、地域をまたぐ利用を推進する仕組みづくりを求めます。

未病改善【関連目標 2】

自転車は多くの県民が利用している身近な交通手段であるとともに、身体への負担を抑えながら全身運動ができ、有酸素運動を長く続けやすい特長を併せ持っており、スポーツのみならず幅広い県民の健康寿命の延伸に効果があると期待されます。

とりわけ自転車は一時的なスポーツ・レジャーだけに留まらず、毎日の生活の中に組み込みやすい側面もありますので、県が取り組む未病改善の柱に据えるにふさわしく、ぜひ積極的に推進していただければと期待しています。

ただし、具体策がサイクルスポーツだけとなるとハードルが高く、一般の県民への広がりを期待しづらい感も拭えません。

未病改善はスポーツをしている人よりも、運動習慣のない・乏しい人にこそ求められる取り組みだと思いますが、本案では、スポーツ・レジャー以外の移動における未病改善の具体策が「施策(2)の再掲」に留まっているのが気がかりです。

例えば横浜市や秦野市など一部の地域で行われているモビリティ・マネジメントのような、日頃の移動を自家用車に依存している人を自転車や公共交通に転換させるような取り組みは、主に環境対策として取り組まれていますが、むしろ健康増進策としても大変有効な取り組みでしょう。

毎日の移動で自転車を使うことの良さを様々な角度から発信するとともに、警察を含むあらゆる県の施策において自転車を(自家用乗用車よりも)優先させるなど、自転車が自家用車よりも走りやすい道路へと改めることこそ、多くの県民の未病改善につながると思いますので、県におかれては自転車活用を未病改善の柱に据えていただいて、ぜひスポーツだけでなく多方面で積極的な取り組みを期待しています。

サイクルツーリズム【関連目標 2, 3】

ベロドロームのある伊豆をはじめ、霞ヶ浦、琵琶湖、しまなみ海道などの成功例に学び、サイクルツーリズムによる観光・地域活性化に取り組む地域が広がっています。

県内でもかつては県が所管していた多摩川サイクリングコースをはじめ、水辺のサイクリングコースは多くの人に利用されていますが、サイクルツーリズムとして考えると市町村単位では必ずしも十分な距離を確保できず、しかし市町村が所管するサイクリングコース等はどうしても市境などでの分断が起こりがちになりますし、自宅や最寄駅などからのアクセス確保も求められます。県には直接所管するサイクリングコースとナショナルサイクルルートに留まらず、ぜひ市町村の管轄も含めたサイクリング環境のネットワーク化に取り組んでいただきたいと期待しています。

また、サイクルスポーツ向け施策においては、サイクリストの間で広く使われているサイクルコンピュータ(自転車に取り付けて走行距離や平均速度などを取得する機器)や活動量計(「スマートバンド」などと呼ばれる、走行場所や心拍数などを収集して運動量を可視化する機器)などの情報の収集・活用に期待したいと思います。

特に近頃の活動量計はスマートフォンのGPSも使って詳しい立ち寄り場所の情報を集められますので、イベントやキャンペーンなどの機会をつくって情報を集めていただき、サイクリストが実際に走った場所や距離・所要時間、立ち寄り場所などの情報を収集・分析し、各施策の改善に活かしていただくと、より実効性の高い施策の展開につながると思います。

加えて、本案でも指摘されている道志みち(国道413号)などでは、最寄りの鉄道駅までのアプローチが長く、路線バスも減便傾向になっていたりして、行程が組み立てにくかったり、途中の立ち寄り観光がしづらい課題もあります。

こうした地域では、既存の路線バスとの併用がしやすくなるよう、路線バスに自転車を輪行袋不要で積載できる設備の助成などを通じて、自転車を登載できるバス車両を100%化し、自転車と路線バスを併用できるようにすれば、途中の立ち寄りやトラブルなどがあっても路線バスを利用しやすくなりますから、掲げられた政策目標を実現しやすくなると考えられますので、自転車と公共交通機関の連携強化にも取り組んでいただけるよう期待します。

災害時の自転車活用に向けた備え【関連目標 4】

災害時に自転車を活用できるよう、備えを進めていただくことは大変有意義なことと思います。ただし、いくら車両だけ揃えても、普段から乗っていない人が、いざという時に効果的に使えるかは疑問です。

非常用・災害用だけではなく、県職員の皆さんに日頃から使ってもらえるように、普段から県施設に自転車を配備しつつ、県職員への安全教育や自転車の効果を知っていただく研修を併せて行っていただくことが、非常時の活用にも道を開くことにつなかると思います。

また、シェアサイクルも積極的に活用していただくと良いかと思います。シェアサイクルを県施設に多数設置(場所を提供)していただき、そのうち最低数台は非常用として貸し出さないよう協定を結ぶといった方法で、職員の皆さんには日頃から自転車に乗ってもらいつつ、自転車を回転させてメンテナンスも確保しつつ、非常時の利用も確保する方法があるように思います。

学校におけるルール教育【関連目標 4】

自転車に乗り始めるのは小学生くらいから。本当はご両親に正しいルールを教えてもらえると良いのですが、ご両親が教えるのは自転車で走るところまでで、ルールまでは手が回っていない面もあるように聞きます。(そもそも、お父さんお母さんが率先して逆走や歩道走行をしている場面も少なからず見かけます…)

生活に欠かせない自転車教育は、小・中学校で行っていただくのが効果的です。ただし、スケアード・ストレートのような過度に危険意識を煽る手法は、効果が疑問視されており、自転車に乗る側を過度に委縮させ、誤ったクルマ優先意識を植え付けるといった副作用も指摘されていますので、自転車活用には向かない手法と言えます。地域の将来を担う子どもたちには、手法を選びながら、丁寧に指導してあげてください。

ところで、概ね小学生までは歩道通行の例外が認められていますが、歩道は歩行者が優先であり、自転車は徐行せねばなりません。しかし小学校高学年にもなると、体力がつき、歩道を我が物顔に走ってしまう場面も見かけます。また、小学6年生まで歩道を通っていて、中学生になった途端に車道を走るのも難しいでしょう。歩行者優先の徹底と、小学生のうちから段階的に車道左側を正しく走れるように指導してください。

また、高校では自転車通学が認められることが多いと思いますが、高校生にもなると大人よりも体力があり、乗る車両も大人と同じものです。しかし子ども気分が抜けきれない年代でもあり、歩道を我が物顔に走ってしまうような場面も見られます。全ての県立高校において、自転車通学する生徒には車道左側走行のルール教育を行っていただけるよう求めます。

ただし、ルール教育の場で、あれはダメ、これはダメと言うだけではいけません。法律や条例を学ぶのではなく、安全に走る方法を学ぶ場にしてください。法律論やダメ・ダメの繰り返しで終始するのではなく、自転車で安全に走る方法が伝わる形で、自転車活用推進に相応しい指導をしてあげてください。

大人へのルール再教育【関連目標 4】

本案には全く盛り込まれていないのが残念ですが、私どもでは、子どもの手本にもなる大人が率先して正しく走ることが重要と考え、取り組んできました。

特に、運転免許を持っていてルールを知っているはずの大人がルールを守らない状況では、子どもの教育にも悪影響を及ぼす懸念もあります。

そもそも、自転車事故の大半は自動車が第一当事者になって起きています。道路を共有する自動車による違法駐車や速度違反が常態化していることが、交通事故の最大の原因になっています。自転車だけに再教育するのでは片手落ちになります。自動車運転者への再教育も併せて実施することが必要です。

警察を所管する県においては、自転車が関係する事故は運転免許保有の有無による有意な差がなく起きており、ルールを熟知しているはずの運転免許保有者が必ずしも安全な自転車利用者になっていない現実を直視していただき、そもそも自転車が安全に走れない道路環境の見直し(前述)とともに、運転免許を持っている大人が率先してルールを守るための施策を盛り込んで実施していただくよう求めます。

また、例えば東京都では、事業所の人事担当者を集めて定期的に自転車ルール教室を開き、人事担当者が従業員向けの社内研修を開くといった方法で、ルールの浸透を図っているようです。

県内にも事業所が多いので、企業の社内研修などを通じてルール普及を促進していただければと思います。今でも警察署が企業や自治体の依頼に応じる形で出前講座などを行っていますが、県の施策として実施すれば、利用する事業所等が増えることでしょう。

自転車保険【関連目標 4】

賠償責任保険の加入促進はぜひ進めていただきたいのですが、民間保険ですから様々な物があり、中には賠償額が足りないものや、示談交渉の付かないものも販売されています。万一事故を起こしてしまったときに、額が足りず、示談交渉も無い保険では、せっかく入っていても手当てしきれない懸念があります。

また、人によっては火災保険などに付帯している特約でカバーできる場合もあり、一層難しくなります。

様々な保険があるため、どの保険に入ればいいの?と聞かれがちですが、保険業法などの兼ね合いもあり、一市民の立場から具体的な保険の案内はしづらい面もあります。それは自転車店等においても同様でしょうし、自転車店が全て保険代理店になれと言うのも無理な話でしょうから、自転車店に加入確認を任せるのも無理筋のように思います。

自転車保険の加入義務化に際しては、様々な民間保険について県で整理していただき、賠償額はこれくらい必要、示談交渉の有無も要チェック、火災保険の特約も確認を、といった具体的な案内をしていただくことが必要ではと思います。

自転車ネットワーク計画・自転車活用推進計画の全県への拡大【関連目標 1-4】

本県に限ったことではありませんが、規模の小さな市町村の中には交通政策や自転車活用の専門職員を配置することが難しく、旧態依然とした道路施策に手一杯で、自転車走行空間の整備といった新しい施策への理解・実践が進みづらい自治体もあることと思います。

一方で、道路担当職員はどの自治体にも配置されていることと思います。

そこで県においては、主に規模の小さな市町村の道路担当職員に対して、自転車活用の意義や推奨される手法等に関する情報提供、事例の共有などを定期的に実施していただき、県全体の自転車活用施策の底上げを図っていただけるよう求めます。

以上

ご案内

本意見書は、本会ホームページにも掲載しています。
http://sltc.jp/file/2020/01/20200118kanagawa_bicycle.html


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