「川崎市自転車活用推進計画(案)」に関する意見書

2020年01月07日提出
持続可能な地域交通を考える会 (SLTc)
代表 井坂 洋士
 
〒211-0004 川崎市中原区新丸子東3-1100-12
かわさき市民活動センター レターケース5
 

川崎市内では従前より自転車が日常生活にか欠かせない市民の足として広く活用されているところですが、昨今の「交通政策基本法」や「自転車活用推進法」をはじめとする法制定、東日本大震災後の交通網の麻痺、止まらない気候変動と気象災害の激甚化など、自転車利用促進への期待がますます高まっている状況にあります。

実際に欧州などの環境先進都市では、予てより都市でできる最も効果のある環境対策のひとつとして自転車の活用に取り組まれ、一定の成果が挙がっていることが知られています。私たち川崎市民にとっても、今回の「川崎市自転車活用推進計画(案)」(以下、本案)に掲げられた施策は必要性の高い施策と考えます。

また、本案は概ね国のガイドラインに沿った内容になっており、「自転車活用推進法」が掲げる目標の達成や近隣地域との施策との親和性も高いと考えられますから、迅速かつ広範囲の施策展開に期待しております。

以下では、本案で示された個別施策に関して本会の見解を述べさせていただきますので、参考にしていただき、より実効性の高い施策とその実施を期待しております。

自動車優先ではなく自転車を優先する仕組みに変えてゆく(関連施策 1-1)

人生を台無しにする交通事故の防止は最優先の課題と考えますが、自転車が関係する事故で圧倒的に多く、重傷化しやすいのが、自動車が第一当事者になる事故です。自動車事故の3類型「認知ミス」「判断ミス」「操作ミス」のうち、最も多いのが「認知ミス」(見落とし)であり、自動車運転者に常に緊張感を持たせることが、交通安全の鉄則です。

本案で掲げられた自転車通行帯や矢羽根の施工は、自転車が車道左側を堂々と走ることで自転車の「見える化」を促すとともに、自動車運転者に対する再教育としても有効であり、全ての道路において実施すべき施策であると考えます。

とはいえ時間がかかるでしょうから、自転車利用の多い地区にて優先的に実施しつつ、効果検証を行い、拡大してゆくという本案の趣旨に賛意を示すとともに、他の道路工事などの機会も捉えて積極的に整備を行っていただき、ゆくゆくは自転車と自動車が走る全ての道路において、何らかの自転車通行帯や指導帯などが整備されるよう期待します。

さて、自動車の運転者に対し、自転車の存在を「見える化」することが、自動車運転者による「認知ミス」を防ぎ、事故防止につながるわけですが、そのために自転車通行帯などのハード施策も推進しつつ、同時にソフト施策も展開するよう求めます。

具体的には、自転車通行帯を幅広く取るとともに、信号待ちの自転車の停止線を前に出す、信号待ちの後には自転車を先に発車させる、自転車の平均速度(20km/h程度)で青信号を連動させるなど、自転車を優先させる仕組みに変えてゆくことが有効です。この手法はデンマークなどで実際に行われ、自転車の利用促進に大きな成果を挙げています。

日本では道路管理者(主に市町村)と交通管理者(都道府県警察)が分離されているため、実施するには警察の協力が欠かせませんが、川崎市から県警に働きかけるなどして、ぜひ自転車がスムースに走れる信号制御を行ってください。安全性の向上につながることはもちろん、自動車から自転車への乗り換えを促進させ、文字通り「自転車活用推進」を実現できるでしょう。

道路の制限速度に応じて自転車通行帯の幅を拡大する(関連施策 1-1)

自転車利用者の視点に立つと、脇を高速で走り抜ける自動車が大きな脅威になっています。ひとくちに自転車と言っても、利用している人は実に多様で、スポーツタイプの自転車もありますが、買い物帰りの荷物を満載した自転車もあれば、子どもを乗せた自転車もありますし、ご高齢の方も多く自転車に乗っています。宅配や出前、客先回りなどの業務利用も増えてきました。

こうした状況で、自転車走行空間を整備する際は、

を確保することが必要です。

改正された道路構造令において、自転車通行帯の幅は1.5m以上確保することとなっていますが、この1.5mにはある程度意味があるようで、ふらつきや転倒などが起きても自動車と接触しない幅の目安とされているようです。国内では愛媛県警察の1.5m運動(右図)などで準用されています。

ここで注意したいのが、道路端から1.5mではなく、自転車との自動車の間を1.5m以上空けることが必要です。自動車も左端ぎりぎりを走るわけではないでしょうが、1.5mあれば充分だとか、特例を使って安易に縮めようとか、考えないでください。少なくとも1.5m、できればそれ以上、確保してください。

物理法則に従い、衝突時の破壊力は、速度の2乗に比例します。速度が高いほど危険性は累乗で増してゆきます。とりわけ自動車の速度が50km/h以上の道路においては、原則として2m以上確保するなど、道路の状況に応じた幅の確保をお願いします。

自転車通行環境の改善(関連施策 1-2)

市内には川崎区などの一部地域で自転車道が整備されている道路がありますが、実際に走ってみると、ゴミ集積場になっていたり、犬の散歩などに使われている箇所も見られます。

また、違法駐車が取り締まられない(例えば人が乗っていても違法駐車に違いないのに、人が乗っていると取り締まりが行われない)など、自転車通行空間が確保されているように見えても、実態として確保されていない場面が少なからず見受けられます。

せっかく自転車通行空間を整備しても、違法駐車ひとつで台無しにされてしまうことのないよう、本案にも盛り込まれているように、違法駐車の取り締まり強化は不可欠です。警察の管轄になりますが、川崎市も協力して取り締まりを強化し、違法駐車を根絶してください。

また、同様に自転車利用者への脅威になっているのが、自動車の速度超過です。重量と速度の2乗に比例して衝撃力が増しますので、まさに「走る凶器」となります。速度超過は街中で凶器を振り回す凶悪犯罪だという認識に立ち、厳しい取り締まりを求めます。

駐輪場の利用促進(関連施策2-1)

本案でも指摘されているように、子ども乗せ車両やアシスト付き車両など、自転車が大型化・重量化する傾向が見られます。旧式のラック式駐輪場では幅が狭すぎて収納できない事例や、転倒などで怪我をする、自転車が破損するといった問題が少なからず見られます。

本会会員も駐輪場に入れた自転車が破損された経験を少なからず持っていましたが、自転車の転倒・破損につながるような旧式の駐輪場では、重いアシスト付き子ども乗せ自転車が転倒する、自転車がドミノ倒しになるなどして怪我をする危険がありますし、破損したまま走るといった整備不良の車両走行を助長しかねません。また、高価なアシスト付き車両やスポーツタイプ車両に乗っている人は敬遠するでしょう。

本案では新規整備の際の補助金などは用意されていますが、旧式の狭い駐輪場に対してもラックの入れ替えなどを促す仕組みを用意することで、利用効率を高められると考えます。

また、駐輪場付近の交通規制を見直し、例えば一方通行規制から軽車両を除外する(よう警察に求める)などで、駐輪場へのアクセスを向上していただけるよう求めます。

駐輪場の整備と空き情報の提供(関連施策2-1)

これまでも駐輪場確保が進められてきましたが、通勤通学利用者向けの定期駐輪場が主体だったことや、同時に人口も増えていることから、駅前商店街などの繁華街を中心に、依然として短時間駐輪場を中心とする不足が見られます。

一方で、川崎市では自動車駐車場の附置義務台数を緩和(削減)するなどで、自動車駐車場には余剰が出ています。

引き続き旺盛な駐輪場需要に応えるために、解禁された公道上への自転車駐輪場設置を推進するとともに、附置義務台数緩和により余剰となっている自動車駐車場の自転車駐輪場への転換を進める制度設計をしてください。

また、高架下や地下など目立たない場所にある駐輪場も多いですから、新住民や来街者などにとっては、そもそも駐輪場がどこにあるか分かりにくい課題があります。長く住んでいて土地勘はあっても、置きたい時にどこが空いているかは勘次第の面もあります。さらに本案にも盛り込まれているように、民営の駐輪場も増えてきました。

市営(市設置)の駐輪場については、今でもざっくりとした空き台数をホームページで見られるようになってはいますが、実際に現地で使えるものにはなっておらず、空いているラックを探し回ることが日常茶飯となっています。また、せっかく補助して増やした民間の駐輪場は、そもそも載っていません。

駐輪場を効率的に利用するためにも、市営・民営等様々な形で提供されている駐輪場の場所や空き情報などを1箇所で発信する、空き状況を細かく表示できるようにする、オープンデータに載せて地図や乗換案内等を提供している第三者も利用できるようにするといった取り組みにより、情報提供の多様化・拡充に期待しています。

シェアサイクルの活用(関連施策 2-2, 3-1)

市内では一昨年よりシェアサイクルが始まり、貸出・返却ポートも少しずつ増えてきて、本会会員も利用する機会が増えてきましたし、活用している市民や来街者が増えていることと思います。

とはいえ、まだまだ利用できる場所が少なく、また借りたい時に自転車がない、自転車はあっても電池切れなどで借りられないといったこともあり、利用促進にはサイクルポートと台数を増やす必要があると考えます。

市内のシェアサイクルは、川崎区と多摩区の一部を除き、民間主導でサイクルポートを設置していますが、民間主導ゆえに公共性の高い場所に設置されるとは限らず、とりわけ鉄道駅や商店街など、利用者が多い場所のサイクルポートが不足していると感じます。区役所や図書館などの公共施設への設置も進んでいないようです。

そこで、市営(市設置)の駐輪場や公共施設、駅前広場などの一角をシェアサイクル事業者に貸し出すなどして、サイクルポートを拡充していただけるよう求めます。

また、集合住宅を中心に、駐輪場の確保が難しい事例も出ているようです。こうした場所にもシェアサイクルポートを設置(場所提供)することで、自家用の自転車を持たない市民にも自転車利用を促す効果があると考えられます。買い物などでシェアサイクルが利用されるようになれば、長い目で見れば駐輪場需要の抑制にもつながるでしょうから、併せて取り組んでいただけるよう期待します。

公共交通との連携(関連施策 3-1, 3-2)

土地勘に乏しい来街者にとって、シェアサイクルポートを探すのは大変です。同じ市民でも、例えば多摩区や麻生区に住む人が川崎駅で降りてサイクルポートを探すのは大変でしょう。

近年、路線バスについては鉄道駅の比較的わかりやすい場所に案内が出るようになってきましたが、依然として乗り換え抵抗は大きなものがあります。さらにシェアサイクルとなると、民間設置の場所が多いことも手伝って、駅への案内の設置などは期待しづらい状況です。

中核になる鉄道駅については、駅前広場などの市が管理する場所にシェアサイクルの設置場所を確保するとともに、鉄道事業者に案内の掲示を依頼するなど、乗り換え抵抗を下げる取り組みを実施していただくと、利用促進につながるものと思います。

シェアサイクルは鉄道や路線バスを補完し、いわゆるラストワンマイルを埋める役割を担えますので、自転車の利用促進とともに、川崎市総合都市交通計画で定めている公共交通の利用促進や、自家用乗用車の利用抑制にもつながると期待されます。

災害用自転車の確保方法について(関連施策 3-2)

災害用自転車を確保するのは良いのですが、普段から乗っていないと、いざという時に効果的に使えるかは疑問です。また、日頃の利用と手入れをしないと錆び付き傷みますから、置いておくだけでは整備不良などにもなりがちです。

非常用・災害用ではなく、市役所職員の皆さんに日頃から使ってもらえる自転車を多めに設置する方が良いと思います。

例えばシェアサイクルを市役所や各区役所に多数設置してもらい、そのうち最低数台は非常用として貸し出さないようにするといった方法で、職員の皆さんには日頃から自転車に乗ってもらいつつ、自転車を回転させてメンテナンスも確保しつつ、非常用の台数も確保する方法があるように思います。

年齢段階に応じたルール教育(関連施策 4-1)

自転車に乗り始めるのは小学生くらいから。本当はご両親に正しいルールを教えてもらえると良いのですが、ご両親が教えるのは自転車で走るところまでで、ルールまでは手が回っていない面もあるように聞きます。(そもそも、お父さんお母さんが率先して逆走や歩道走行をしている場面も少なからず見かけます…)

生活に欠かせない自転車教育は、小・中学校で行っていただくのが効果的です。ただし、スケアード・ストレートのような過度に危険意識を煽る手法は、効果が疑問視されており、自転車に乗る側を過度に委縮させ、誤ったクルマ優先意識を植え付けるといった副作用も指摘されていますので、自転車活用には向かない手法と言えます。事実、自転車活用で実績を挙げてきた先進都市ではこうした乱暴な手法は実施されていません。地域の将来を担う子どもたちには、スケアード・ストレートのような乱暴な手法に頼らず、丁寧に指導してあげてください。

ところで、概ね小学生までは歩道通行の例外が認められていますが、歩道は歩行者が優先であり、自転車は徐行せねばなりません。しかし小学校高学年にもなると、体力がつき、歩道を我が物顔に走ってしまう場面も見かけます。また、小学6年生まで歩道を通っていて、中学生になった途端に車道を走るのも難しいでしょう。歩行者優先の徹底と、小学生のうちから段階的に車道左側を正しく走れるように指導してください。

また、中学・高校では自転車通学が認められることがあります。中学生にもなると体力がつき、乗る自転車も大人と変わりません。しかし小学生気分が抜けきれない年代でもあります。自転車通学する生徒への車道左側走行のルール教育を併せて行っていただけるよう求めます。

大人へのルール(再)教育(関連施策 4-1)

運転免許を持っていてルールを知っているはずの大人がルールを守らない状況もあり、大人が誤った手本を示して子どもの教育にも悪影響を及ぼす懸念もありますので、私どもでは子どもの手本にもなる大人への(再)教育が重要と考え、取り組んできました。

しかしながら、大人への再教育にはインセンティブが働かず、自転車ルール教室などを開いても人が集まりません。現実として難しいものです。

こうした課題は本市に限らず全国的な課題ですが、例えば東京都では、事業所の人事担当者を集めて定期的に自転車ルール教室を開き、人事担当者が従業員向けの社内研修を開くといった方法で、ルールの浸透を図っているようです。

川崎市にも事業所が多いですし、町会・自治会活動も活発ですから、町会・自治会や企業の社内研修などを通じてルール普及を促進していただければと思います。

また、そもそもルールを学んできた証であるはずの運転免許証を持っている大人ですら、ルールを守っていない実態があると指摘されています。これに対しては警察の責任で、運転免許更新の際に再教育を実施していただきたいのですが、川崎市からもそのように要請していただきたく思います。

ただし、ルール教育の場で、あれはダメ、これはダメと言うだけではいけません。法律や条例を学ぶのではなく、安全に走る方法を学ぶ場にしてください。川崎市で配布している『自転車の安全利用スマートガイド』も然りですが、あれはダメこれはダメで終始するのではなく、自転車で安全に走る方法が伝わる形に改めてください。

また、自転車事故の大半は自動車が第一当事者になって起きています。道路を共有する自動車による違法駐車や速度違反が常態化していることが、交通事故の最大の原因になっています。自転車だけに再教育するのでは片手落ちになります。自動車運転者への再教育も併せて実施することよう求めます。

誤った表示・掲示の撤去(関連施策 4-1)

川崎市と警察署の連名で、単路上に「自転車徐行」(右図)といった法定外表示を行っている場面を見かけますが、このような不適切な表示は安全教育上逆効果になりますので、撤去するよう求めます。

自転車の徐行は時速7.5km/hなどと言われますが、まともに走れる速度ではなく、自転車は走るなと言うのと同義です。根拠もなく出来もしないことをいたずらに求めるような掲示があることで、むしろ掲示全体の説得力を失わせることにもなりかねません。

同様の事例は「一時停止」などもありますが、闇雲に貼るのではなく、自動車と同様に一時停止規制がされている側だけに掲示すべきです。

むしろ、徐行や一時停止すべき所はどこなのか、なぜそれが必要なのかを、丁寧に伝えるべきです。自転車の基本的なルールは自動車と同じです。自転車を軽視するような誤った表示・掲示は行わないよう求めます。

損害賠償責任保険(関連施策 4-2)

賠償責任保険の加入促進はぜひ進めていただきたいのですが、民間保険ですから様々な物があり、中には賠償額が足りないものや、示談交渉の付かないものも販売されています。万一事故を起こしてしまったときに、額が足りず、示談交渉も無い保険では、せっかく入っていても手当てしきれない懸念があります。

様々な保険があるため、どの保険に入ればいいの?と聞かれがちですが、保険業法などの兼ね合いもあり、一市民の立場から具体的な保険の案内はしづらい面もあります。

また、人によっては火災保険などに付帯している特約でカバーできる場合もあり、一層難しくなります。

ただ保険に入れと言うだけではなく、様々な民間保険があるので整理していただき、賠償額はこれくらい必要、示談交渉の有無も要チェック、火災保険の特約も確認を、といった具体的な案内をしていただけるよう期待します。

以上

ご案内

本意見書は、本会ホームページにも掲載しています。
http://sltc.jp/file/2020/01/20200107kawasaki_bicycle.html


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