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 川崎市環境局環境調整課 御中 

「川崎市環境基本計画(改定案)」に関する意見書

持続可能な地域交通を考える会 (SLTc)
代表  井坂 洋士 
2010年10月20日  

川崎市におかれましては、日頃より環境対策に熱心にお取り組みいただきありがとうございます。 現在策定中の「川崎市環境基本計画(改定案)(以下、本案)について、下記のとおりご意見を申し上げます。

微小粒子状物質(PM2.5)をはじめとする大気環境対策および地球温暖化対策について、自動車(移動排出源)の総量を減らす対策を強力に推進すること

川崎市ではかつての「公害のまち」というイメージからは脱却しつつある半面、川崎市に限らず都市に共通した課題として、自動車による大気汚染が深刻化している。これは、工場等の固定排出源への対策が進んだことに対し、自動車は野放図に増加し続け、しかも対策が技術論やスローガン的なものに終始し、定量的に自動車走行量を削減する取り組みに着手できなかったことが主因となっていると考える。

また、地球温暖化対策でも、交通・家庭部門では、自家用乗用車いわゆる「マイカー」の増加による環境汚染が顕著になっており、また他分野に比べて対策余地が極めて大きいと試算されており2008年版 環境自治体白書、この対策が急務となっている。

川崎市では独自に実施している喘息公害被害者等への医療費助成制度の申請者も拡大し、特に北部・西部の幹線道路沿いに住む市民の申請が多いと聞かれる。ここからも、移動排出源(自動車)による大気汚染公害が深刻である。市民の安易な自動車利用が公害発生に直結していることをPRするとともに、定量的に自動車総量を削減する対策が急務である。

もっとも、これはかつての計画にも明記され取り組まれてきたところであるが、現実には自動車の需要管理(交通需要マネジメント)はほとんど行われておらず、増えるがままに放置されてきた感がある。最近は自動車走行量が頭打ちになっているようだが、これも環境施策が奏効したというよりも、市民の趣向や市場の受給バランスの変化によるものが大きいと考えられる。さらに2008年頃からは政府の高速道路料金政策などを受けて自家用乗用車が再び増えつつあるとの指摘もされている。つまり、これまでの政策では足りないのであって、抜本的かつ着実にクルマを減らす取り組みを実施するよう求める。

本案では、従来案では1番目に掲げられていた大気環境環境対策が重点分野4番目に並び変えられているようだが、これが公害が終焉しつつあるとの認識を示すものではないことを確認するとともに、大気汚染対策を強力に推進すること、環境基準が設けられたPM2.5の環境基準全地点達成に向けて観測体制や情報公開を強化すること、および根本的に自動車を減らすため、既存の道路構造を歩行者および自転車・路線バス利用者が優先される構造に改築すること、自動車需要を誘発する新規道路建設を凍結し昭和時代の「都市計画道路」計画を改めること、公害問題をタブー視せず公害環境教育を実施することなど、総合的かつ抜本的な対策を行うよう求める。

都市計画など他部局が所管する各種計画に本計画を反映させること

どんなに素晴らしい環境基本計画を描いても、これが実行されなければ絵に描いた餅になってしまう。特に、他部局との調整が必要になる計画においては、これを推進するための体制づくりと、他部局が独自に持つ計画に環境配慮をかけ合わせてゆく取り組みが必要と考える。

交通対策や緑地・雨水対策など、まちづくり政策と密接に関連するものも少なくない。 たとえば交通対策では自動車ではなく他の交通手段がより安全で便利・快適になるようにすることで移行を促す政策があるが、これには、新総合計画など市の上位の計画、および公共交通や中心市街地政策を担当するまちづくり局や、自転車・道路対策を担当する建設緑政局が行う施策に本案を重ねてゆく必要があり、こうした他部局の計画に環境的な観点を反映させるための分野横断的な取り組みを併せて行ってゆくことをしないと、本質的な対策はし得ないものと考える。

本案からは市総合計画や他部局との連携・調整の部分が見えてこないが、単に条例で配慮規定がありますという事ではなく、他部局の計画を含めて環境配慮型に変えてゆくために事前調整や情報公開などを含めた、戦略的な取り組みが必要と考える。

自転車利用が安全かつ快適になるよう推進すること

地球温暖化対策で「環境にやさしい交通ネットワークの構築」が掲げられ、環境負荷の低減や高齢社会への対応などに配慮した計画を策定すること、公共交通機関の利便性を向上させることが掲げられたことを評価するとともに、この積極的な推進を求める。

一方で、川崎市の施策において欠けている自転車の利用促進という観点を補うよう求める。自転車は、使い方を誤らなければ最も人と環境にやさしく健康にも資する交通手段だが、残念ながらその能力を発揮しているとは言い難い状況にあり、利用環境の改善や利用者への啓発など総合的な取り組みが必要と考える。

具体的には、自転車は車道左側走行の原則を徹底させ、歩道には(高齢者や子供などを除き)原則として自転車を走らせないこと。片側2車線以上ある道路では1車線以上を自転車・路線バス・公共車両専用レーンとしその幅を広く取ること、駐車場附置義務を改め既存駐車場を自転車駐輪場に改める、商店街などに短時間駐輪場の整備を進める、といった総合的な自転車利用促進計画を策定し、実施するよう求める。

「電気自動車の導入に対する助成」は貨物・公共車両に集中実施すること

PM(浮遊粒子状物質)、NOx(窒素酸化物)、CO2(温室効果ガス)排出量の大半を占め、速度違反や違法駐車などが横行し、交通事故などの深刻な被害も引き起こしている自動車の対策は急務になっているが、前述のように、その抜本対策は遅々として進んでいない状況にある。

本案には「電気自動車の導入に対する助成」といった具体的な施策が書き込まれているが、こうした施策は多額の税金投入を伴うものであるとともに、自動車の総量を減らす効果は期待できず、部分的な公害対策には資するものの、自動車がもたらしている様々な問題をすべて解決できるものではない。一方で、ここ3年間に政府が行った高速道路料金政策を見ても明らかなように、自動車利用の負担を軽くすれば自家用乗用車の利用が増え、もって公害や交通犯罪などの深刻な悪影響も一層増加させてしまう。

また、川崎市では「新たな行財政改革プラン」の策定を進めるなど、財政に決して余裕があるわけではなく、非効率な投資は行うべきでない。

効率よく効果的な施策とするためには、自家用乗用車(いわゆる「マイカー」)は対象とせず、営業用貨物車(郵便配達、宅配などの運送業)や公共車両(路線バス、救急・消防車、清掃車、タクシーなど)など走行距離の長い車両に集中的に投入すべきである。たとえば市内の郵便集配局・宅配拠点に集中的に充電スタンドや電気自動車の導入を補助する、郵便や新聞配達所に電動バイクの導入を補助する、などの施策を集中的に実施することで、限られた予算で効果的な温暖化対策が実施できる上、生活道路に入り込む車両の騒音対策などにも資する、有意義な施策にすることができると考える。

「環境教育・環境学習」にてモビリティ・マネジメントを実施すること

本案には「環境教育・環境学習の推進」が盛り込まれており、これは市民の環境意識を高める重要な施策のひとつと考えるが、ここに交通分野の施策を含めるよう求める。

当会はかねてより、自動車がもたらす正の効果が宣伝されていることに対して、負の効果に関する認識が不十分であるとの認識で取り組んできたが、今年5月に東京都が実施した「自動車利用と環境に関する世論調査」を見ても、クルマ社会についてその弊害が大きいとの回答は12%と少数に留まっており、安易なクルマ利用がもたらす地球温暖化や公害、交通事故などの弊害について意識が高まっていない状況にある。

たとえばクルマ利用を控えることで人と環境にやさしいまちになるPRをする川崎市交通局(市バス)のラッピングバスを走らせる、小中学校の生徒にクルマに頼った生活が危険で環境や健康を損なうものであることを教える、人と環境にやさしい自転車の乗り方教室を行う、といった様々な取り組みができることと考える。

環境対策に取り組む市民団体などとの協力体制を強化し、市民参加を促すこと

川崎市内には環境分野で活動する市民団体もあり、そうした市民団体のように関心の高い人々にはより詳細で具体的な情報提供を行うとともに、本案のような市の政策立案の段階から市民団体に呼びかけ、一緒に計画を作ってゆくような場があっても良かったのではと考える。

たとえばドイツなど欧州諸国の自治体では1980年代など早い段階から計画立案段階から市民との意見交流を重ねて計画を作ってきていると聞くし、最近では国内でもそうした事例が出始めている。市民参加の在り方を再考し、計画立案段階から多様な主体が係わって一緒に推進してゆけるような体制づくりに期待したい。

一方で、必ずしも関心の高くない市民に向けては、裾野を拡げるための広報が別途必要になると考える。 たとえば、今はまだ高い関心は持っていないが少し関心がある市民に向けた入門編の情報提供や、そうした活動を行う市民団体を支援し仲間を増やすための手助けをする、市内で開催されるお祭りなどのイベントに参画して環境配慮型イベントの実施を支援するといった、多くの市民が親しみやすい、参加して楽しみながら環境対策ができるような広報・支援体制を実施するよう求める。

以 上  
持続可能な地域交通を考える会 (SLTc)  代表 井坂 洋士
 
〒211-0004 川崎市中原区新丸子東3-1100-12 かわさき市民活動センター レターケース5号
[URL] http://sltc.jp/ [E-mail] query@sltc.jp

※本意見書は当会ホームページでもご覧いただけます: http://sltc.jp/file/2010/201010kankyokeikaku.html