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 川崎市環境局地球環境推進室 御中 

「川崎市地球温暖化対策推進基本計画(案)」に関する意見書

持続可能な地域交通を考える会 (SLTc)
代表  井坂 洋士 
2010年 7月20日  

川崎市におかれましては、日頃より環境対策に熱心にお取り組みいただきありがとうございます。 現在策定中の「川崎市地球温暖化対策推進基本計画(案)(以下、本案)について、下記のとおりご意見を申し上げます。

分野別の実施計画は数値目標を伴う検証可能なものにすること

本案では12の基本施策を柱に据え、事業活動、市民生活、再生可能エネルギー、交通・まちづくり、廃棄物、緑の保全など分野別に取り組まれることになっていますが、この分野別の計画立案において、各施策の進捗状況に数値目標を設けて取り組みを推進してゆくことを求めます。

これは、必ずしも全体の排出量削減目標と連動したものではなく、個別分野毎の取り組みの進捗状況を測るための数値目標として示すものです。たとえば川崎市緑の基本計画「かわさき緑の30プラン」において、施策展開により保全・創出・育成される緑の量が市域面積の30%に相当するという全体目標を立てるとともに、5つの基本方針、12のプロジェクト、50の基本施策について目標を立て、その「緑の実施計画」の進捗状況報告がされていますが、このように事後振り返り、順調なところ、足りないところを評価してゆく仕組みを備えないと、PDCAサイクルを回してゆけないものと考えます。

ただし、「緑の実施計画」では12のプロジェクト、50の基本施策の全てにおいて数値目標が設けられているわけではありませんが、地球温暖化対策推進基本計画においては12の基本施策の各々について数値目標を採り入れることにより、より実効性のある計画にすることができると考えます。

都市計画に環境施策を反映させること

交通・家庭部門では、自家用乗用車いわゆる「マイカー」の増加による環境汚染が顕著になっており、この対策が急務となっています。

では、人口増加割合よりはるかに高い割合で「マイカー」が増えている理由は何でしょうか。川崎市では中心市街地への来街者交通手段分担率などの定期的な基礎調査が為されていないことから、その全容把握は難しくなっていますが、主因になっているのは都市計画道路整備(自動車走行空間の拡大)と駐車場附置義務に伴う駐車場の増加であると考えています。これは、市のまちづくり・都市計画予算の中で、自動車利用促進に働く事業(道路拡幅、高速走行可能な道路への改修、舗装改良、駐車場整備など)と、自転車や路線バスの利用および歩行空間の快適に資する事業の割合を比較するだけでも、その傾向が確認できるものです。

市民にできる事は市民が、市(行政)がすべき事は市が行う。これはもっともな指摘に見えますが、一方で行政が市民に対し自動車の利用を便利で快適にする事業を行っている(逆インセンティヴを与えている)状況があることも見逃してはいけません。

川崎市に限った事ではありませんが、昭和40年代に計画された(温暖化対策どころか公害対策すら考慮されていない、クルマ利用が右肩上がりに増え続けることを想定した)20世紀型の「都市計画道路」計画が引き継がれ(小規模な見直しはされていますが大枠では変わらず、たとえば平成20年の見直しでは全100路線のうちわずか5路線5区間でしか見直しがされず、完成または事業中の53路線は全て原案のまま存続となっています)今なお推進されており、こうした古い計画が環境対策の足枷になっている面があります。そうした計画は「時のアセス」にかけて環境負荷の低減を考慮した21世紀型の計画に改める、または白紙に戻して検討し直す、さらに既存道路についても見直しを行い、一般車道を削って歩道の拡大や自転車・バス専用レーンに改修するといった、抜本的かつ総合的な対策が求められます。

このように、交通・まちづくり政策ひとつを取って見ても、総合計画に環境配慮を反映させることが欠かせません。現在、国で検討されている「交通基本法」の基本的な考え方を見ても、交通まちづくりの環境配慮、人と環境にやさしい(徒歩・自転車・公共交通志向の)交通まちづくりへの転換が求められてゆく方向が明確に打ち出されています。

しかも、これは川崎市民の選択に資するものでもあります。右写真は当会が地域のイベントへの来場者に協力を求めて実施している交通アンケートの結果ですが、これ(右写真は中原区の例)を見ても明らかなように、徒歩、自転車、電車・バスの利用意向が圧倒的に多くなっています。

地球温暖化をはじめとした環境問題、交通事故により阪神大震災が毎年起きている規模の被害者が出ていること、さらに超高齢化社会の到来や石油枯渇への対応など、これまでの20世紀型の右肩上がり前提の計画を抜本的に変革することが求められています。

こうした社会情勢の中、川崎市では鉄道の利便性が高く評価され(週刊東洋経済調査「駅力」ランキング上位40位に川崎、武蔵小杉、新百合ヶ丘、溝口の4駅がランクイン)ていますし、市民も率先して人と環境にやさしい交通手段を選択している(H20東京都市圏パーソントリップ調査、地域別代表交通手段分担率で徒歩・自転車・バス・鉄道を合わせて80%、これは東京都区部に次いで高い割合)望ましい状況にあると言えます。川崎市のこうした特長を失わせる計画は改め、川崎市の特長をさらに伸ばしてゆくための取り組みが必要です。

人と環境にやさしい交通手段を選択する市民を応援する交通・まちづくり施策を行うことは、多くの市民の要望に応えることにつながる。そのように意識していただき、環境局、まちづくり局、建設緑政局、および交通規制を行っている警察とも調整していただき、人と環境にやさしい交通手段を選択する市民を応援する(逆に自動車の利用促進につながる計画は削除した)総合計画や都市マスタープランを打ち立て、実施していただくよう求めます。

基礎的データ収集を整備すること

上記のように数値目標を伴う実効性のある計画を立てるためには、基礎データを取ることが欠かせません。交通まちづくりでいえば中心市街地来街者の交通手段分担率や、区毎の交通手段分担率など、都市圏PTで取れていない細かな基礎データの収集が必要であると考えます。

欧州諸国の都市では毎年収集されるこのようなデータが政策展開の基礎になっており、たとえば自転車の分担率を何%まで引き上げるという数値目標を掲げ、そのために自転車レーンを幹線道路の何%に整備する、コミュニティサイクルを導入し利用数を何回に引き上げる、といった具体的な取り組みがされているのは、御存知のとおりです。こうした取り組みは残念ながら日本の都市ではあまり行われていません。川崎市が他の都市に先駆けて実施するよう期待しています。

他にもヒートアイランド対策でいえば面的な温度測定など、様々な分野に言えることでしょうが、12の基本施策の具体策立案および事後評価を行うためにも、基礎データの収集体制の整備を求めます。

また、民主的な政策運営のため、また温暖化対策に取り組む市民団体や市民個人の取り組みを支援するためにも、そうした基礎データを市民にも見える形で公開することを併せて求めます。

自転車利用が安全かつ快適になるよう推進する

交通における地球温暖化対策で「環境にやさしい交通ネットワークの構築」が掲げられ、環境負荷の低減や高齢社会への対応などに配慮した計画を策定すること、公共交通機関の利便性を向上させることが掲げられたことは評価し、積極的な推進を求めます。

一方で、自転車の利用促進という観点が弱いことが気がかりです。自転車については、使い方を誤らなければ最も人と環境にやさしく健康づくりにも資する交通手段ですが、残念ながらその能力を発揮しているとは言い難い状況にあります。

自転車は車道左側走行の原則を徹底させ、歩道には(高齢者や子供などを除き)原則として自転車を走らせないこと。片側2車線以上ある道路では1車線以上を自転車・路線バス・公共車両専用レーンとしその幅を広く取ること、駐車場附置義務を改め既存駐車場を自転車駐輪場に改める、商店街などに短時間駐輪場の整備を進める、といった総合的な自転車利用促進計画を策定し、実施するよう求めます。

財政支出を伴う「自動車単体対策」は貨物・公共車両に集中実施すること

CO2排出量の大半を占め、速度違反や違法駐車などが横行し、公害や交通事故などの深刻な問題も引き起こす自動車の対策は急務になっています。

本案には電気自動車の導入推進などが掲げられており、ここに経済的なインセンティブを付け助成制度を導入するといった具体的な施策が書き込まれていますが、こうした施策は多額の税金投入を伴うものです。効率よく効果的な施策とするためには、自家用乗用車(いわゆる「マイカー」)は対象とせず、営業用貨物車(郵便配達、宅配などの運送業)や公共車両(路線バス、救急・消防車、清掃車、タクシーなど)など走行距離の長い車両に集中的に投入すべきです。たとえば市内の郵便集配局・宅配拠点に集中的に充電スタンドや電気自動車の導入を補助する、郵便や新聞配達所に電動バイクの導入を補助する、などの施策を集中的に実施することで、限られた予算で効果的な温暖化対策が実施できる上、生活道路に入り込む車両の騒音対策などにも資する、有意義な施策にすることができると考えます。

環境教育の中に、安易な自家用車利用を削減するモビリティ・マネジメントを含めること

本案には「環境教育・環境学習の推進」が盛り込まれており、これは市民の環境意識を高める重要な施策のひとつと考えますが、ここに交通分野の施策を含めるよう求めます。

当会はかねてより、自動車がもたらす正の効果が宣伝されていることに対して、負の効果に関する認識が不十分であるとの認識で取り組んでおりますが、今年5月に東京都が実施した「自動車利用と環境に関する世論調査」を見ても、クルマ社会についてその弊害が大きいとの回答は12%と少数に留まっており、安易なクルマ利用がもたらす地球温暖化や公害、交通事故などの弊害について意識が高まっていない様子がうかがえます。

川崎市には交通局(市バス)がありますので、たとえばクルマ利用を控えることで人と環境にやさしいまちになるPRをするラッピングバスを走らせるなどの広報ができると有意義と考えます。

安易なクルマ利用がもたらしている様々な問題点をしっかり広報することとともに、歩く、自転車やバス・電車を使うことで環境にやさしく健康でおサイフにもやさしい生活ができることを広くPRすることを求めます。

簡潔で前向きなメッセージを発信すること

今後の実施計画の策定および広報の段階においては、多くの市民に関心を持っていただき、取り組んでいただくための方策が必要になるでしょう。多くの市民の皆さんに前向きに取り組んでいただけるよう、これをすると「まちが住みよくなる」と思える、楽しみになるような提案の仕方をするよう求めます。

たとえば、今後の広報を行う際は、5つの基本方針と12の基本施策について、これを実施すると私たちの生活がどう変わるのかが伝わってくるようなメッセージを掲げてみてはいかがでしょうか。

具体例(1) 公共交通や自転車を利用しやすい健康で快適なまちづくり

たとえば、普段の生活で公共交通や自転車を利用する人は生活習慣病になりにくく健康であること、川崎市は公共交通の利便性が高く評価されていること、歩く人が優先される中心商店街は賑わうこと、深刻な被害を出し続けている交通事故を減らせること、最近では欧米諸国の都市で「歩いて暮らせるまち」の不動産価格が上昇しており国内では富山市に実例が見られること、などを紹介しつつ、環境対策をすることで他の面でもまちが良くなることを積極的にPRしてみてはいかがでしょうか。

このような前向きな説明をしつつ、

このように具体的な政策を訴えることで、各種施策がより前向きに受け容れられるのではないでしょうか。


具体例(2) 自然と親しめる都市

川崎市は都市の高い利便性がありながら、緑があって親しみやすいと評価されています。この特長をさらに伸ばし、都市にありながら気軽に自然と親しめる環境をまもり育ててゆきます。そのために「緑の30プラン」による緑地保全や、開発規制、緑化推進施策を用意しています。と訴えてみてはいかがでしょうか。


上記2例のように、環境対策に前向きに取り組んでもらえるようにするため、まちづくりや生活習慣をどう変えたら環境にやさしくなるのか、そのために市が用意する具体策や提案は何かを、技術論とは別のところで発信してゆくことも、また求められていると思います。

専門知識を持たない人にも直感的にわかりやすい表現で広報を

川崎市内には環境分野で活動する市民団体もありますので、そうした市民団体のように関心の高い人々にはより詳細で具体的な情報提供を行うことが期待されますが、一方で必ずしも関心の高くない市民に向けては、裾野を拡げるための広報が別途必要になると考えます。

しかし、本案では後者の考え方が弱いように感じられます。

たとえば電子機器などの複雑になりがちな製品の説明書では、全ての人が隅々まで目を通すことが期待できないため、すぐに使い始められるように要約した説明書を別途用意する、目次や表現を工夫するなど、伝える努力がされています。こうした工夫をしてゆかないと、膨大な資料はなかなか読んでもらえず、すると関心を示していただける人がなかなか増えないという悪循環になってしまいかねません。

そこで、たとえば本案24ページにある「目指すべき低炭素社会のイメージ」を目次に出すとともに具体策のページ数を示すといったように、必ずしも専門知識を持たない人でもわかりやすい資料づくりを求めます。

環境対策の味方である市民団体等へはより迅速かつ詳細なとの協力関係を築くこと、および今後関心を持っていただきたい市民に向けては親しみやすい広報を行うこと、その両面の取り組みを求めます。

以 上  
持続可能な地域交通を考える会 (SLTc)  代表 井坂 洋士
 
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※本意見書は当会ホームページでもご覧いただけます: http://sltc.jp/file/2010/201007ondanka.html