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  川崎市環境局 総務部 環境調整課 御中  

「川崎市環境基本計画の改定に向けた基本的な考え方」に関する意見書

持続可能な地域交通を考える会 (SLTc)
2009年 4月30日  

川崎市におかれましては、日頃より人と環境にやさしい市民生活の実現に向けてご尽力いただきありがとうございます。この度の「川崎市環境基本計画の改定に向けた基本的な考え方」への意見募集に際し、本会の主な対象領域である環境交通分野の面から、次のとおり取りまとめ、ご意見を申し上げます。

以前の計画に盛り込まれていた施策の実施状況を総点検し、その結果を公表する。

これまでも環境基本計画の中で「公共車両優先システム(PTPS)の導入・拡大」や「自動車交通への依存を抑制したライフスタイルの形成」を重点的に取り組むことを定め、具体的には ◆バス路線等の公共交通網の整備、拡充 ◆鉄道交通の利便性の向上による交通手段の転換の促進 ◆自転車利用環境の整備 の必要性が明示されている(『2008年度版 環境基本計画年次報告書』より)が、これらはどれだけ実践されただろうか。

川崎市では以前より CNGバスの導入必要性が指摘され、川崎市は普及促進モデル地域になっているが、その割りには導入が進まず、特に内陸部では皆無の状況である。 「自転車利用環境の整備」に至っては遅々として進まないばかりか、今回の改定案では計画そのものから葬り去られようとしている。

このように、以前の計画に盛り込んだ事項の実施状況がどうなのかを再度見直し、これまでの取り組みが充分であったのかを自ら確認・反省するとともに、その内容を市民に報告し、市民側が検証できるような制度を設けることを求める。

自転車の利用環境整備とその適切な利用促進を盛り込むこと。

従来の環境基本計画には「自転車利用環境の整備」が盛り込まれ、交通分野で最も環境にやさしい乗り物である自転車の利用環境整備が謳われていたが、今回の改定案ではこの部分がそぎ落とされ、自転車利用が促進されないことになったと読める。これは極めて深刻な問題であり、「自転車利用環境の整備」を復活させ、より効果的な取り組みを実施するよう求める。

自転車は、適切に利用すれば、環境負荷が低いことはもちろん、あらゆる乗り物の中で最も事故の危険が低い乗り物でもある。もちろん費用負担も低く抑えられることから市民のおサイフにも優しい。

ところが川崎市は、不要不急の道路拡幅などに大金をつぎ込みながら、自転車利用環境の整備はいっこうに進んでこなかった。

環境問題からの要請や人口増加などを受けて、ますます自転車への期待が高まる中、残念ながら川崎市では「自転車対策」として排斥に近い運動が各行政区主導で行われることがある半面、自転車走行車線の確保など自転車利用環境の整備はほとんど為されず、そうした無計画行政の結果が、自転車に係わる事故の増加や、いわゆる「放置自転車」問題などにつながっている。

環境負荷の高い自動車の走行環境ばかりを増加させてきたこれまでの建設局の道路行政の在り方を真摯に反省し、むしろ自転車を安全・安心・快適に利用できるようにするための環境整備をいっそう推進せねばならないのに、今回は環境局ですら自転車の利用環境整備を落とすというのは到底理解し難い。自転車の利用環境整備とその利用促進を明確に謳い、実現に向けて努力することを強く求める。

道路交通分野では脱「マイカー」に取り組むこと。

地球温暖化を抑止するための種々の方法が提案されて、「エコライフ」「エコカー」などがブームになっているが、一口に「エコライフ」といっても効果の程度は千差万別であり、例えばテレビの待機電源をこまめに切るのと、マイカーを自転車にきりかえるのとでは、比較にならないほどの差がある。また、最近やたらに新“エコカー”がマスコミを賑わすが、大企業が政府から巨額の研究費補助という名の税金をもらって、華々しく宣伝する“エコカー”がどのくらい「エコ」なのか数値的で説得力のある説明が抜けている。 その点では自転車こそが最も「エコ」的な「カー」であるが、彼らはそういう本質をおくびにも出さない。

自動車の走行量を減らすことが、道路交通分野におけるCO2発生の抑制に寄与する唯一最大の施策であることは、環境に携わる人なら誰もが理解しているはずだが、残念なことに、手を変え品を変えて「エコ」を装いながら、依然としてクルマ最優先主義政策が貫徹されている状況にある。

たとえば、欧米の多くの都市や、日本の一部の地方都市では、LRTを含む鉄道の復活、 既存道路におけるクルマ走行部分の規制の強化、自転車専用レーンの整備拡充への取り組みを広げてきている。従来は「行楽」「健康増進」目的のサイクリングロードしか考えなかった自転車専用道の整備が、市民生活の場に広がりつつある。 このように、私たち市民が毎日利用する地域交通を根本的に、本物の「エコ」に変えるための施策を実施してゆく必要がある。

市を挙げてマイカーを使わない広報活動に取り組むこと。

増え続ける「マイカー」は交通事故や渋滞を多発させ、路線バスや緊急車両などの公共車両が渋滞に巻き込まれるとともに、貨物車の排ガス公害が悪化するといった問題を引き起こし、道路需要の野放図な増加は緑地や住宅などを減らし、川崎市民の生活を危険で不安で不経済な持続不可能なものにしている。温室効果ガスなどの対策はもとより、生活環境対策としても、地域交通分野の役割は大きいと言える。

ところが、市民への広報・周知は充分ではなく、取り組みの具体化や意識の浸透が進まないことから、こうした取り組みの一層の拡充のため、本会では昨年の提案書でも「交通局が自ら環境広告・イメージ広告を打ち、公共交通の利用を呼びかけること。」を求めました。

路線バスが環境にやさしいと言われる所以は多くの人が共同利用することにあります。この利点を最大限発揮させるためには、何よりも、「マイカー」に乗っている人に、バスに乗り換えていただく利点を伝える必要があります。 もちろん、営業収入の 7割以上を運賃収入に頼る市バスにとって、利用者の増加が即、経営問題の改善に資することは言うまでもありません。 昨年の提案書でも求めたように、マイカーから路線バスへの乗り換えを促す広報活動等を積極的に行う計画を盛り込むよう求めます。

実効ある対策を行うこと。「エコドライブ」などは実効性を担保する制度とすること。

これまでの環境政策では、残念ながら実効性が担保されずスローガンを掲げるに留まるものも多く見られた。もちろん一般的な呼びかけも重要だが、それに留まることなく、実際に環境負荷が減ることを重要視し、様々な選択肢の中からより環境負荷の低いものの利用を促進するとともに、環境負荷の高いものの利用を抑制するための取り組みを求める。

また、「エコ」と謳いながらその実態がむしろ環境破壊につながる恐れがあるものもある。たとえば「エコカー」減免税は、新車の9割もが対象になっているし、電気自動車についても購入補助に加え燃料の非課税や助成なども構想されているが、これは自転車や公共交通利用などに比べて環境負荷の高いマイカー利用を促進する制度としても機能し、環境負荷をむしろ悪化させるおそれもある。

市が環境政策を立案・実施する際は、そうした逆効果が起こらないような制度になする必要がある。

市内の他部局との連携を強化すること。

川崎市では「縦割り行政の弊害」が起きていることが懸念される。 たとえば、市立井田病院へのアクセス路線として川崎市交通局が赤字覚悟で杉01系統(小杉駅〜井田病院方面)を運行しているが、病院局ではこれとは別に武蔵小杉駅からの送迎バスを運行するようになった。 たとえば両者が連携して杉01系統を「100円バス」にする、受診時に整理券を出して運賃を割り戻すといった取り組みができなかったのか。このような二重行政は行政コストから見て無駄になるとともに、環境面から見ても問題である。

このように個別に見てゆくと、部局の縦割りによる弊害や、まるで逆のメッセージを出している政策などが少なからずあるように見受けられる。環境対策は、川崎市環境局だけではなく、市を挙げて取り組む体制をつくるとともに、たとえば環境局が他部局の政策を見て環境対策にマイナスである施策について改善を求めるような取り組みが必要であると考える。

道路交通対策では警察との連携を強化し、警察の交通規制も環境対応型にするよう求めること。

国単位では国土交通省と警察庁が連携して道路交通問題に取り組むようになってきたが、川崎市域において、市の計画行政と警察の規制行政の間に連携が取れているだろうか。特に道路交通分野の環境対策をする際は、市の施策はもちろん、県警の交通規制等も人と環境にやさしいものに変えてゆかねばならない。たとえば歩行者の安全確保、自転車車線の確保、マイカー規制やバス優先レーンの確保、制限速度違反や違法駐車の徹底取り締まり、公共車両優先信号の整備など、すべて警察の仕事だが、それらが総合的に行われないと、徒歩・自転車・バスで道路を通る人は安心できず、マイカー利用を増やすという最悪の結果を生むこととなる。

特に交通分野での環境対策は、川崎市だけで行えるものではなく、県などとの連携が必要である。たとえば神奈川県では地球温暖化対策推進条例が検討されているが、そうしたところとの連携強化も行いつつ、実効ある取り組みができるための体制づくりを行うことを求める。

大気環境対策・交通制御計画の実施。

気象条件・汚染条件から規制強度判定を行い、市域内への自動車流入量を随時規制する。条例を制定・施行する。

たとえば、大気汚染常時観測の度合いや、大気予報などを行い、その状況に応じて段階的に「大型車両(4t超)の流入規制」「大型車両(2t超)の流入規制」「路線バス・タクシー・緊急車両を除く全車両の流入規制」といった具合で規制を行う。

公害発生源の変化に対応し、依然増加し続けている喘息等公害被害者への救済を強化する。

公害発生源がかつての工場由来から自動車由来へと大きく変化する中、市の公害行政もその変化にあわせ、自動車対策を一層強化する必要がある。

川崎市は依然として全国でも最悪水準の大気汚染地域であり、「公害」は終わるどころかむしろ悪化しているとも言えるが、今ではその主因は自動車排ガスへと替わっている。その結果、市域において人口あたり喘息罹患率は今なお増加傾向が続いており、たとえば特に通過交通の多い宮前区などで「川崎市成人ぜん息患者医療費助成制度」申請が目立つなど、大気汚染は深刻化・広域化している。

PM2.5を含む広範囲・詳細な大気観測体制を整備するとともに、大気汚染をはじめとする公害により健康な生活を奪われた人へは最大限の救済を行い、逆に公害・渋滞など様々な害悪を社会に与える自動車(特にマイカー)利用者に対してはその負担を引き上げる措置を同時に取る必要がある。

公用車の削減と、必要な公用車については適切な管理と環境負荷低減を行うこと。

市職員の移動には公用車を使わず公共交通機関や自転車を利用すること、公用車をカーシェアリングにすること、マイカー通勤を原則禁止とし自転車通勤手当てを増額すること、などにより、市の行政から排出される温室効果ガスや大気汚染を削減すること。

また、全部局・課・係の環境対策、自動車利用低減の取り組みなどの事例を調査し、公表・保存すること。

揮発性有機化合物(VOC)対策の推進。

学会発表・民間有志の研究により、プラスティックゴミの中間処理施設(圧縮・減量施設)での各種有害物質の新規生成が明らかになっている。これらの施設での排気空気を環境中に放出しない対策をとり、モニタリング結果を常時公表し、記録を永久保存する。

貨物の共同配送や、自動車を使わない配送の推進。

たとえば、近距離での物品の配送に自転車・リアカーを積極的に使用する事業者が現れているが、そうした事例を調査して評価・表彰するとともに、自転車・リアカー配送を行う事業者への助成等を行う。

市の行政にかかる環境負荷の情報収集と公開。

市民や企業に環境対策を求めるにあたり、行政は手本を示していただきたい。 まずは、川崎市各部局・各課の電気自動車・燃料電池自動車・ガソリン自動車・ディーゼル自動車の保有数およびその稼働状況を、毎月、全部局・課・係別に公表、保存することを求める(交通局自動車部・水道局も含む)

また、川崎市内での公共交通(電車、バス、タクシー)の稼働状況(車種別保有台数、車種別業務走行距離・非業務走行距離)、車種別燃料消費量、および市民の徒歩・自転車利用の状況を随時調査し、その結果を私たちに公開することを求める。

統計・情報公開は、私たち市民が考え、行動するときの基礎となるものである。行政内部で情報収集することはもちろん、そうした情報が活用されるよう広く公開することも求める。

市民の情報ネットワーク構築

私たち市民が、環境にやさしい活動をする企業を評価する仕組みを設けること。

たとえば、マイカー通勤を禁止し自転車通勤を促進している企業などを表彰したり、逆にアイドリング・ストップを実行しない車両・業者・担当者を見つけた市民が市へ通報することで情報収集を行い行政指導に役立てる、といった「通報受信・公表・警告制度」を条例で確立し、実施する。

また、駐車違反・速度違反を含めた違反行為を行う業者については名前の即時公表と情報の長期保存を行う。

以 上  

持続可能な地域交通を考える会 http://sltc.jp/
 代表 井坂 洋士
 
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※本意見書は当会ホームページでもご覧いただけます: http://sltc.jp/file/2009/200904kawasakikankyo.html