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  川崎市長 阿部 孝夫 殿 (川崎市交通局管理課 御中)  

バス共通カードの取り扱い終了に際しての提案書
―路線バスをもっと便利でお得にする機会にするために―

持続可能な地域交通を考える会 (SLTc)
代表  井坂 洋士 
2009年12月24日  

市バスにおかれましては、日頃より人と環境にやさしい市民生活に欠かせない交通サービスの提供にご尽力いただき、ありがとうございます。 日頃より私たち市民の毎日の生活に欠かせない地域交通で人と環境にやさしい交通手段が選ばれる地域にしたいと調査検討や情報提供などを行っている当会としては、現に多くの市民に選ばれているバス共通カードの廃止に伴う様々な影響を懸念しているところです。 本件「バス共通カードの取扱い終了等に係るパブリックコメント」の募集を受けて検討させていただいた結果、下記のとおりご提案を差し上げます。 つきましては下記の趣旨を採り入れていただき、人と環境にやさしい交通手段としてより一層市民に選ばれる交通機関になられますよう期待しております。

磁気カードの廃止はやむを得ないが、ICカード利用がむしろ得になるよう制度を改めること。

市内では1992年から利用が始まり、今では首都圏の多くの事業者で使える便利なバス回数乗車券として愛用されている「バス共通カード(磁気カード)ですが、昨今の PASMO(ICカード、Suicaを含む、以下同様)の利用範囲拡大を受けて、民営事業者を中心に磁気カードの取り扱いを一斉に打ち切るとの発表がされているところです。

こうした状況下、バス共通カードの取り扱いを続ける事業者は少数となり、特に市内を走る路線バスで見ると市バス以外で利用できなくなること、また市バスでは紙の回数券が併売されていることから、今後は共通カードの意義が薄れ、継続提供の意義が失われるとの判断には合理性があると考えます。

一方で、後述のように、磁気カードからICカードへの移行は実質値上げとなる面もあります。これはサービス低下になるばかりか、バスの利用者を失わせることにつながりかねず、これまで路線バスは値上げが客離れにつながる悪循環を経験してきたことからも、これでは事業者にとっても利益になるのか疑問です。

ご存じのように、路線バスは通勤通学で毎日使う人もいれば、気軽に出かけたい市民の足としても利用されており、時々利用する人も少なくないことと思います(当会会員だけで見ても多くが後者です)。さらに、当会調査によれば、今後の市民の足としてバスは自転車とともに市民に最も高く期待されている交通手段です。 ついては、実質サービスを低下させず、さらにサービスが向上するような変更となるよう、この機会に価格・割引面を含め、様々な利用者の要望に応えうる制度設計をしていただくよう求めます。

また、鉄道におけるICカード化では利用客の増加を期待する指摘もあるようですが、特に乗降時に支払いをする路線バスにおいては、その処理の迅速化による運行時間短縮などの効果もあることと思います。利用者にしても回数券を購入する手間も省けます。市バスであれば、紙の回数券を利用する人を増やすような制度変更にするのではなく、むしろ価格面を含めICカードを利用する人がお得になるような仕組みにする必要があると考えます。

利便性を落とさずに共通カードと同水準の割引を提供すること。
「バス特」を共通カードの代替とするのなら、計算期間を延長すること。

参考資料1に示されているように、市内路線バス事業者の中では最も早く全車でICカードに対応した市バスにおいてすら、本年度10月までの実績でバス共通カードを選ぶ人が36.6%で最も多く、今なお多くの利用者に支持されているようです。カードを通す手間のないICカードの利便を押してでも磁気カードが選ばれていることの理由のひとつに、共通カードで提供されている割引がPASMO等では受けられなくなる(あるいは目減りする)ことを懸念する利用者が相当数いることがあると考えます。

1ヶ月(毎月1日〜末日)の乗車回数により変わる
実質負担額の例 (「バス特」は2010年4月以降)
1ヶ月の
利用回数
実質負担額
バス共通カードPASMO「バス特」
1〜 4回:182/179/171円200円
5〜10回:182/179/171円181.8〜190円
11〜15回:182/179/171円181.8〜186.7円
16〜21回:182/179/171円177.5〜182.9円
22〜27回:182/179/171円177.0〜187.7円
28〜34回:182/179/171円169.6〜175 円
35〜40回:182/179/171円170.9〜174.5円
41〜45回:182/179/171円170.7〜173.3円
46〜51回:182/179/171円170 〜172.9円
52〜57回:182/179/171円170 〜172.6円
58  回:182/179/171円170円
※川崎市内200円区間のみを大人普通運賃で利用した
場合を想定し、金利等の他要素は考慮しない。

バス共通カードの廃止に伴い、各社ではPASMO等のICカードを利用するよう呼びかけられており、来年4月からはICカードで利用した際に付加されるバス利用特典サービス(通称「バス特」)の特典額調整が発表されています。しかしながら、右表で示したように、そもそもこの「バス特」の特典は一ヶ月の間に5回以上バスを利用しないと受けられず、しかもバス共通カードと比べると1ヶ月に概ね16回以上(=右表の濃い網掛け部分、ただし5000円券と比較すると28回以上=右表の薄い網掛け部分)利用している人以外は実質負担額が増えることになりそうです(いずれも200円区間のみを利用した場合で換算)

これはポイント付与率以前に、「バス特」が1ヶ月単位で計算され、同じ月内に繰り返し利用しないとその特典を受けられないことに起因する問題です。

もっとも、市バスでは紙の回数乗車券(2000円で2300円分、4000円で4700円分利用可能、ただし市バス専用)も発行されており、これが継続発行されるとすれば、市バスのみを利用する人については代替手段が確保されていますが、共通カードとしての利便性は失われることになります。

そもそも、市バスでも民営バス各社でも、バス共通カードの代替としてPASMO等の利用が勧められていること、バス共通カードが実態として回数券のように機能していること、今回それが廃止されることを鑑みれば、回数券機能の代替である「バス特」の適用範囲拡大が不可欠と考えます。 少なくとも1ヶ月(同じ月)という期間設定は、鉄道の回数券ですら3ヶ月有効の中、回数券の利用期間として考えると妥当とはいえず、速やかな改善が望まれます。

ついては、「バス特」対象となるバス利用額の計算期間を本来は無期限とすべきですが、仕様上それが難しいとしても、たとえば1年といった長い期間で計算するよう改めるよう求めます。これにより、ICカードの利便性と、バス共通カードの回数券機能をともに利用できるようになり、利用者はもとより、事業者側にとっても利便向上や維持管理費用低減、利用機会増などの利点があると考えます。

また、当会の取材では、一部民営事業者において、現行の「バス特」がバス共通カードを代替するかのような説明がされていると聞いております。上記の事情を勘案すれば、現行の「バス特」では代替にならない場合が少なからずあるのですから、市バスにおかれては誤った案内にならないよう、分かりにくい「バス特」の特性をしっかり利用者に説明するよう求めます。

一時利用が可能な1日乗車券を提供すること。

磁気カードの廃止に伴い、同じく磁気カード読取機を使う1日乗車券の廃止が予定されています。この代替としてPASMO等のIC1日乗車券を購入するよう案内されており、多くの方にとってはそれで良いのですが、一部の利用者で問題が生じます。

まず、IC1日乗車券は一度に1種類しか付けられず、同様のサービスを提供している他事業者と共存できません。たとえば、市内では市バスと東急バスが1日乗車券を発売していますが、これら両方を使いたい場合、現在は磁気券を利用するよう案内されています。また東急バスではIC定期券も提供されていますが、これと市バス1日乗車券は併用できるのでしょうか。 さらに、観光客などの一時利用者に、いちいちPASMOを買えと言うわけにはいきません。こうした皆さんにも気軽にバスを利用してもらうためには、既に指摘されている家族券・特殊券ばかりでなく、普通券(大人・小児)でも一時的に利用できる1日乗車券の提供が必要になると考えます。

市内各事業者共通の1日乗車券や乗り継ぎサービスを企画すること。

上記のような1日乗車券の課題があるとき、その解決策として、市内共通の1日乗車券を提供するという方法もあるでしょう。本来、バスに乗る人は会社で選ぶのではなく、出発地と目的地で選びます。実態として事業者毎の運用になっている運賃体系も、利用者本位で決められたものではありません。その点、バス共通カードやPASMO等の共通乗車券は、公共交通を利用する私たちにとって、とても優れたサービスであると言えそうです。

さて、川崎市内に多くの路線を持つバス事業者は市バスの他にも3社、一部路線が乗り入れている事業者を含めるとさらに4社あり(子会社等と高速バス等を除く)、概ね住み分けて営業しています。これら全社(特に前の3社)で、または個別に、共通一日乗車券の発行ができたら、(もちろん価格にもよりますが)利用者にとって分かりやすいサービスになるのではと期待されますし、これを使ったバス旅客も増えるのではないでしょうか。

また、たとえば川崎区臨海部では、広範にわたりバスでの移動に頼っており、市バスともう1社でほとんどの路線を持っています。川崎区内の移動において、この2社の路線を乗り継ぎたいという要望は、少なからず存在するのではないでしょうか。

こうした需要は、決して大きくはないのかもしれませんが、バス利用にかかる抵抗感を抑え、バス利用を身近にする効果は決して小さくないと考えます。調整などに様々な苦労があるとは思いますが、民間同士では難しい公営事業者ならではの役割とも思います。他事業者と連携し、PASMO等を活用することで、川崎市内を運行する路線バス事業者同士で1日乗車券を共通化することや乗り継ぎサービスを実施することを求めます。

ICカードの特徴を活かしたサービスを企画・提供すること。

たとえば、川崎区臨海部や宮前区向丘地区など比較的長距離の幹線路線のバス停の近くに建設局と連携して駐輪場を設け、この駐輪場で市バスIC1日乗車券を買えるようにし、IC1日乗車券の有効日は無料で駐輪場を利用できるようにすることで、バス停までは気軽に自転車で来ていただけるようにし、手軽に利用していただけるといった方法があるでしょうか。

路線バスをはじめとする公共交通は、それ単体で役目を果たすことはまれで、多くの場合は他の交通手段と併用されますから、このように他の事業者、他の交通手段との連携は欠かせないものと考えます。

運賃についても、ゆくゆくは欧州各地で実践されている運輸連合のような手法もあり得るでしょうが、まずは市内の事業者との連携体制をつくり、協力して公共交通の利用者に利便を提供すること。そのような展開ができたなら、今回のバス共通カードの廃止がむしろ前向きな機会になるのではないでしょうか。

以 上  

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